第六:こういう時はそっとしてて欲しい……
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「んじゃ撮るよ~。はい、チーズっ」
ありすが突然言い出した記念撮影――。俺はありすとのツーショットで、咄嗟に両耳でおでこの上の毛を隠した……。
「あっ! ハクト、せっかくのチャームポイント隠してるー」
「ありすだって、どこ見ながら『ホー』の口してんだよ」
ありすは、あははと笑い「良く気づいたな、おぬし」と得意げだ。すかさず――写真の顔真似をして「ほーこれがバレないとでも」と返すと、ありすはまた笑った。
間もなくして、ありすが「あ、そういえば――」と切り出す。
「着ていた服は耐久値が10%以下になってたから、今度作った人の所に持っていこー。さすがに私でも、この状態で手を加えるのは怖いわ」
ありすが広げた赤い花柄のアロハシャツは「ぼろぼろ」を超えて「ぼろっぼろ」になっている。
「とりあえず……、替わりにこれ着てて」とウインドウ画面から出されたのは、水色のTシャツに『オリゴ糖』と白くプリントされたものだった。
着て、試しに歩いてみる……「っんが」。ありすでもオーバーサイズな服――、Tシャツの裾が足に引っ掛かって歩きにくい……。
「ハクト、なに遊んでるの~」そういうと、ありすは裾を折って右端をギュッと片結びする……。
「って、もうこんな時間じゃん! また明日来るからっ」ありすはそういって、右手でゴメンをして<ログアウト>したのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◆
ログハウスに差し込む……白く眩しい西日で、俺は目が覚めた。
「……マジかよ」
おでこの上あたりの少し長い体毛を、前足で解き上げる。
ハンバーガーの匂いがかすかに残る部屋の中は静かだ。視界右上の数字は、……七時十九分か。
もう少し寝るつもりが……。
一時ごろに寝たから六時間ちょっとか……、早起きしてしまったときのパターンか。
「……しょうがない、起きるか」
大きく伸びをして、ベッドからピョンと降りる――。と、テーブルの上にはラップのかかったハンバーガーひとつと、小さな置き手紙が皿の上下にある。
そして、隣には逆さにした取っ手付きコップが並ぶ。
「神かっ」
テクテク台所に行き、コップに水を入れ……。テーブルの下のカーペットに正座して、ハンバーガーを味わって食べた。
「醬油ベースか?」
ありすの小さな置き手紙には――、可愛い丸文字でこう書かれていた。
<ハクトおはよー またハンバーガーだけど味付けは違うよん♪ 君にはこの違いに気づけるかな?>
……朝から何を遊んでんだ。と思いつつ、見回すありすの部屋は飾り気がなかった。
朝食を済ませ――、どんな所に家があるのか気になった俺は外に出ることにした。
ドアを少し開けると、西から吹く風に若草がウェーブしている。
家から飛び出すと、先には広葉樹で覆われる見上げるほど高い山があった――。俺はあーんと、口が空いてたことに後で気づいた。木々はゆっくりと波打ち、葉の擦れ合う音が遅れてやってくる……きらいじゃない。
ログハウスの方へ振り返ると、東の方に一本の木が隣にあるだけで、まるで役立たずな影を落としている……。
西側に行くと、小高い丘の上にあることがわかった。先に森があるが、高さが足りない。あれでは朝日が、窓からベッドの俺にダイレクトアタックだ。ふと、キンクマからもらったどんぐりの存在を思い出した。
バグだらけのこの世界、ワンチャン……「次の日になったら大きく育っている」も、あり得る。
さっそく俺は「木の幹で朝日を防ぎ、葉っぱで木陰が出来たらいいな」と思うところに穴を掘り――、どんぐりを植えた。もちろん、……取っ手付きコップでの水やりも忘れない。
「神様、仏様、きんくまさま~。どうか私めを朝の日差しからお救い下さい~」
正座をして、前足を合わせスリスリする……。
「こんな所で何してるの?」
振り向くと、アリスの衣装に着替えたありすが立っていた……。