第四:脱兎が如く3
恐らく母親に強制ログアウトされたのだろう。ペットか晩御飯の選択肢から逃げることの出来た俺は――。
再び、始めに見つかってしまった三人の人間に断崖絶壁の行き止まりまで追い込まれていた――。
左を見れば到底、登ることのできない垂直な壁……、右を見れば落ちたら最後であろう高さの崖。
ただ、……救いは三人とも装備が剣なことと、道幅がひとり分しかないことだ。当たり前だが、剣は遠距離・中距離戦において攻撃が届くことは無い。
ここに杖を持っていたトロイのがいたら戦況は変わっていただろうが、まだ射程圏内ではない。……だが、先頭の奴がじりじり距離を詰めてきている。
手元に残っているのは……、<スペード><クローバー><ダイヤ>の三枚。
仮にさっきの三人娘に起きたことがたまたまでなかったら、何か起こるはずだ……。
<スペード>はスペードのエースって言われるぐらいだから切り札っぽいし……、クローバーは四つ葉のクローバーで幸運を連想させるし……。
ここは――、消去法で<ダイヤ>だ。
そう思い、<ダイヤ>のカードを地面に「ベシッ!!」と出した――。と、その瞬間『効果を発動します。※揺れに備えてください』の文字がカードの上に現れた――。俺は慌てて身を縮め、ふせをした。
すると……、ゴオオオオオオオッという地響きとともに地震が起きる――。あまりの轟音と揺れに俺は恐怖のあまり目を閉じた。
「止まった?」
揺れがおさまり……、目を開くと追ってきた人間はおろか、ここまで来た道すら残っていなかった。
「……詰んだ?」
ふと、チュートリアルで習得した<プロテクション>の存在を思い出した――。俺の知っている限り、ゲーム上でのプロテクションは……、要するに半透明な薄い壁。
「プロテクション!」
目の前には俺の大きさがちょうど埋まる半透明な薄い壁が現れた。
◇◆
「……にしても二枚までって、こりゃまだまだかかるな」
プロテクションで現れた板の強度と同時発動の上限数を確認した俺は、先に進んでいた……。
プロテクションは何回使っても<MP>は減らない――。が、試しに落ちてる石をぶつけたら<HP>が少し減った。また、<プロテクション>の説明欄には『破壊不可の半透明な薄い壁』とある……、相変わらずアバウトだ。
「……はあ。とりあえず……、進もう」
◇◆◇◆
「陣形を乱すなーーー!!タンク二人はアタッカーのために壁を使って、道を塞げーーー」
おっと、こっちじゃないな――。って一人先回りしてんな。
「アタッカー! 今だッ!!」
「わかってますよ、ぶちょう」
『脱兎』――。二人の間を抜け、大きな二つの剣が地面をグサッと鳴らした。
「なんてすばしっこいの。――全ッ然、当たらない。――ッあ! このうさぎ、背中にタッチって……。――私達、遊ばれてる?」
――遊んでいるわけではない、こっちだって必死に逃げてるだけだ。
二人の間から魔法を使う女の背中にあてたのは<クローバー>のカードだった――。効果はすぐに現れ……。地面に突き刺さった剣を抜くのに必死で、無防備な二人の背後から女の火魔法が降り注ぐ――。
女の魔法は止まらず、壁にいたタンク二人は火魔法で崩れた壁の下敷きになった。
そして、火魔法を使う女はそれを自分に向けると燃え上がり……<クエスト失敗>の文字だけが残った。
「いやああああ、お見事っ!!」
少し離れた所から「パチパチ」と拍手をして近づいてきたのは、見覚えのある帽子を被った無精ひげの男だった。
殺気は感じないが……、俺を狙ってここに来たのは間違いない。逃げた方がいい――、顔を森の方へ向けたときだった。
「ダット」
俺の目の前には、少し離れたところにいたはずの男が立っていた……。