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第二:脱兎が如く

 足の力が抜けた俺は、膝から崩れ落ちてしまった……。それはあの時のふざけたジェスチャーではない。これに似た喪失感は二度目だ。――と、浸る間もなく。


「ピコン」


 ポップな音が鳴ると、黒板色の透明なウィンドウが勝手に開いた。


<条件を満たしました>


 表示する白い文字は少しすると、《脱兎(だっと)》の習得完了を通知して消えた。


「……くそっ」


 俺は握りしめた前足で地面を殴った――。習得した<脱兎>の内容を確認する気にはならなかった。


「……帰るか」


 立ち上がり、来た道へ振り向いた時だった――。暗転した横画面のウインドウが勝手にポップアップする。


「今度はなんだよ!」


 画面中央に<Magic or Sword ; β4.0>の白い文字が表示すると、流れ星が効果音に合わせて一つだけ右上の方から左下へ通り過ぎる。すると――、後を追うように画面を埋め尽くほど無数の流れ星が画面端へ消えた。初めに映った文字は消えている。


 少しして、星がひとつだけ同じように流れ……。星は画面下でぶつかり、二度バウンドするとパタッと倒れた。星は起き上がり、トコトコ左端まで歩いた。――と、次の瞬間。反対へ走りだすと『ホップ、ステップ、ジャンプ』のように高く飛ぶ――。


 星は画面右の中央に留まり、クローズアップするとMagic or Sword ; β4.0のイベントスタートを俺に知らせた。


「えっ、何?」


◆◇◇◆◇◇◆◇◇◇◆◇


「待てーっ!! 逃げんじゃねえーっ!」

「大人しく狩られろーっ!」

「イベント上がるううううう」

「――三人とも。はぁ……はぁ……、ちょっと待ってよ~」


「ブラキ炭鉱のあいつも……。こんな気持ちだったのかなああああああああ――」

 訳も分からないまま始まったベータ4.0のイベント――。対象魔獣に指定された俺は、人間に見つかってしまった。


 開始五分で――。なんて運が悪いんだ――、どん兵衛じゃねえぞ。


 唯一の救いは神託を受けたおかげか――。四足で走り出すと視界に速度メータが表示された。バグった状況もここまで来れば少し笑えてくる。


 時速80㎞/hになると、四人の声は聞こえなくなった。


「ばいばいき~~ん」


◇◆◇


「せ……、せ……、せ……セーーーフッ!!」


 家に帰ると――、そこには消えずに残っている《白兎のおうち》があった。思わず、審判のポーズをしてしまった。


 恐る恐るドアを開ける……。うん、うちの中も来た時のまま。


「神社みたいに消えてたら、呪ったぞ~」


 走り疲れたせいか、急な展開に疲れたせいなのか……。考える余力はなく……体が自然と寝室へ向かい、ベッドの上に倒れ込んだ。


◇◆◇◆


 コンコン、コンコンと玄関をノックする音で目が覚めた。


「くそボケが――、便所じゃねえぞ」


 悪態をつきながら玄関へと、目をこすりながら向かう。追い打ちのように――「うーさぎさーん」と名前を呼ばれる。


「はーあーいー」


 玄関を開けると、目の前にはさっき追いかけられた三人の男がいた。――バタンと、ドアを閉めた。間一髪――、ガチャガチャドアノブを回す音が聞こえるが、向こうからは開けられないようだ。


 ドアノブを回す音が止まった。――が、今度はドアを「ドンッ」と、何かで叩く音に変わった。そのあとも音はまるで、ドアを壊そうと――、目に入ったのは<耐久値95%><耐久値90%><耐久値85%>と音のするたびに耐久値の表示が減っていく様子だった。


 やばい――。このままでは、いずれ壊されてしまう――。戦わないと……でもどうやって。逃げないと……でもどこへ。


 何か……なんでもいい、武器になるもの――。と、思うと体が勝手に部屋の中をひっくり返し始めた――。


 だが一度、一通り探した部屋……、役に立ちそうなものはない。――ふと、唯一開けてないところを思い出した。


 そう、洋服タンスの引き出しの上。洋服をかける所だ。


 洋服タンスの前に着くと、初めには感じなかった異様さを感じた……。開けたら何かが変わってしまいそうな……そんな何かだ。――が、そんなことを思っているのを遮るように耳元で《ドアの耐久値がまもなく限界を迎えます》とアナウンスに似た声が聞こえた。


 「……頼む、何でもいい。何かあってくれ――」


 祈りながら開けた扉の先には《(いにしえ)から伝わりしマジシャンの一張羅(いっちょうら)》の表示があった。


 文字をタップすると<装備しますか? はい/いいえ>と表示し、すかさず<はい>を選択すると、瞬時に着替えることができた。


 いかにも強つよネームではないか……。ふと、全身鏡に一張羅を着た姿が目に入った……。



 「(いにしえ)って……。ただの……、ぼろぼろなお(ふる)じゃねえかああああああああ」


 そう言いながら、俺は頭の上の小さなマジシャンハットを床に叩きつけた――。

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