第Ⅺ:アニキ
ログハウスの裏手にある湿地帯を二時間…………。キンクマに肩車され超えると――、街が見えた。
「霧の先には、こんな街があったのかー」
「ずら……やっとついたずら」
そうなのだ。ログハウスの裏手はどこまで続くかもわからない湿地帯となっていた。またその先は、来るものを帰らぬ者へと変えるほどの深い深い霧が広がっていた。
「――おっ! キンクマじゃねえか」
「…………ホントだ! キンクマだ」
街に入ると――――どうやら、キンクマの知り合いが居合わせたようだ。
「マジか! キンクマが帰ったぞ!」
「みんな――!キンクマが帰ったぞ」
あれ? なんか騒ぎになってないか? いや……、むしろキンクマのことを誰もが知っている様子だぞ。
「みんなただいまずらーっ! 金熊鼠族、第一王子のキンクマ。ただいま帰還ずらー!」
キンクマは最後の「ずらー」と同時に『ロッキー』のガッツポーズをすると――、拳を上げたまま周り始めた。
肩車されたままの俺は「そんな急に周り始めると落ちるからー」と、必死にキンクマの顔にしがみつくのだった。
◆◆
「ほうほう、ハクトとやら。うちのキンクマがお世話になっているようで、大変感謝する」
そういったのは、この街『金熊都市』の王だった。
宮殿に招かれた俺とキンクマは『どんぐり』の換金を待つ間、王の書斎に呼ばれた。
にしても……、この柄はどう見ても虎柄――。熊の要素どこにいった――、あ。よく見れば柄の色は熊と同じか……。
ぜってえ――、このキャラ考えたやつ「あ……この手があった!」みたいな発想してんだろ――。俺はそう思いながら、顔をそらして拳を握った。
「ところで、ハクトとやら…………」
キンクマの王が俺たちを書斎に呼んだ……、本題を伝える気だ。
「…………いや。また次会った時でもよかろう。倅とは、これからもよろしく頼む」
そういうと……、深く頭を下げるのだった。
◆◆
「合計で……、今回の換金額は『\380,160-』になります。キンクマ様、記録更新おめでとうございます」
「ヤッターずらっ!」
「…………マジかよ」
『どんぐり』の換金によって、俺たちは小金持ちになった――。そして、俺はある事に気づく……。
「って、キンクマ…………。もしかして俺たち、一生安泰じゃねえか――」
そういった俺に、キンクマが指を振りながら答える。
「チッチッチッチー。ハクトも気づいてしまったようずらね……。『どんぐり拾い』こそが、この世界で食いっぱぐれない絶対的な法則であることを!」
そう言い放ったキンクマに、俺は心の底から「アニキーーーーーーッ!!」と叫ぶのだった。