見えない敵
数年後、黒沢家の悲劇の後、屋敷は忘れ去られ、湿気と時の流れによって木材はひび割れ、廊下は息苦しい沈黙に包まれていた。しかし、村人たちの間である噂が広まり、当局の注意を引いた。屋敷の内部から発せられる甘くも腐臭を伴う悪臭。それはあまりにも濃く、耐えがたいほどだった。ある者は、埃まみれの窓の向こうに影が滑るのを見たと誓い、またある者は屋敷に近づいた途端、突如として強烈なめまいに襲われ、足を引き返さざるを得なかったと言う。
法医学調査団が屋敷に派遣されたとき、誰もがそこで何を見つけるのか想像すらできなかった。防護服とマスクを装着し、慎重に建物内を進む調査員たち。その足音が舞い上げる細かな埃は、まるで宙に浮く灰のように闇の中で揺らめいた。最初に気づいた異変は、屋敷の表面に広がる異様な質感だった。梁、壁、畳までもが不規則な膜に覆われており、懐中電灯の光に照らされると、奇妙な模様を浮かび上がらせた。
検査の結果、最悪の事態が判明した。その屋敷は、オフィオコルディセプス・ユニラテラリス(Ophiocordyceps unilateralis)の突然変異体によって完全に侵されていたのだ。この菌は通常、昆虫を宿主とし、神経系を操りながらその体を内部から食い尽くすことで知られていた。しかし、黒沢家の屋敷では、その進化がありえない方向へ進んでいた。
研究の結果、この変異型は極めて微細な胞子を空気中に放出し、それを吸い込んだ者に甚大な影響を及ぼすことが明らかになった。最初は軽い方向感覚の喪失と倦怠感、次第に不眠が続き、現実と見分けがつかない幻覚を見るようになる。やがて、彼らの心には深い妄想が根付き始める。暗闇の中、何かがじっと自分を見つめている。姿なき何者かが、影に潜みながら付きまとってくる。恐怖はやがて狂気へと変わり、最も重症の者は、目に見えぬ敵から逃れるため、自ら命を絶つしかなかった。
こうして、黒沢家の悲劇の真相が明らかになった。あの夜、子供たちを助けようとした村人たちも、屋敷にわずか数分いただけで影響を受けていた。激しい頭痛、不気味な悪夢、どこへ行っても消えない視線の感覚…すべての証拠が一致した。村人たちは再び屋敷に足を踏み入れることを恐れ、真実を知った者たちも、生きて語ることはなかった。
だが、最も戦慄すべきは、屋敷の地下で発見されたものだった。腐り果てた木材の下に広がるのは、まるで枯れた静脈のように絡み合う、無数の太い菌糸のネットワーク。それは地中にまで広がり、木材を、土壌を、そして何かを栄養源として成長していた。そしてその中心には、まるで心臓のように弱々しく脈打つ、膨れ上がった塊が鎮座していた。まるで屋敷そのものが生きているかのように、何十年もの間、静かに成長を続けていたのだった。
この恐るべき事実を知った村人たちは、ある決断を下した。屋敷は、消さねばならない。放置するのでは不十分、封鎖するだけでは足りない。黒沢家の屋敷は、完全に消滅しなければならなかった。村人たちは密かに準備を進め、月のない夜、松明を手に屋敷を包囲した。そして、一斉に炎を投じた。壁に、家具に、屋敷の隅々に燃え広がる炎。燃え盛る屋敷は、まるで夜の闇に抗うかのように轟々と燃え上がった。黒煙が木々の間を漂い、やがて暗闇に溶け込んでいった。
最後の火の粉が舞い落ち、村人たちが屋敷の跡地を土で覆い尽くした後も、彼らはそれで終わったとは思わなかった。村人の間では今も、こんな噂が囁かれている。
風の強い夜、微かに聞こえる子守唄のような囁き声。
そして、かつて屋敷があった場所に近づきすぎた者は、二度と離れることができなくなるのだと…。