運の悪い賢い少年
ハジメがあのような残虐な行為を犯す前に、彼は子供たちに宛てた手紙を残した。そこには、家を出るようにという警告が記されていた。この家は呪われている、と。
その手紙を読んだナオトの背筋に、恐怖が這い上がった。彼は咄嗟に自分の部屋のクローゼットの中へと身を隠した。
それでも、彼は必死に論理的な説明を見つけようとした。母はただ浴槽で足を滑らせ、溺れてしまっただけなのだ。そして、父は悲しみに耐えきれず、子供たちに別れも告げずに森で命を絶ったのだと、自分に言い聞かせた。
しかし、この家は忘れさせてはくれなかった。
その夜、眠りに落ちた時、彼らは帰ってきた。
夢の中で、母がナオトを呼んでいた。しかし、それは母ではなかった。彼女の肌は腫れ上がり、あざだらけだった。唇は乾き切り、黒ずんでいた。それは、まるで長い間淀んだ水の中に漂っていたかのようだった。充血した目は見開かれ、苦しげに彼を見つめていた。口が開いたが、そこから声は出なかった。ただ、ゴボゴボとした泡立つ音が喉から漏れ、黒ずんだ液体が溢れ出た。
次に、父がその隣に現れた。彼の首は異常なほど不自然にねじれており、皮膚が引っ張られ、裂けかけていた。足は地面についていなかった。何か見えない力によって、首を吊られているかのようだった。彼もまた何かを話そうとしていたが、ナオトにはその声が聞こえなかった。
そして、彼の表情が変わった。
濁った目でナオトを貫くように見つめると、突然、口が大きく開いた。無言の叫びとともに、唇の端が頬まで裂け、そこからは深淵の闇が覗いていた。
ナオトは突然目を覚ました。あの沈黙の悲鳴がまだ耳にこだましていた。
もはや眠ることはできなかった。
時計を見ると、午前3時15分を指していた。
その時だった。
ユイの部屋の半開きの扉が、勢いよく閉まった。
その音が、静寂を切り裂いた。
ナオトは飛び起きた。
「ユイ!」
心臓が激しく鼓動する。彼は妹の部屋へ駆け寄り、ドアノブを回そうとした。しかし、それはまるで誰かが反対側で握りしめているかのように、びくともしなかった。しかも、氷のように冷たい。
彼は必死にドアを叩いた。
「ユイ!起きろ!ドアを開けて!」
しかし、返事はなかった。
耳をドアに当てる。
静寂――何の音もしない。
背筋に冷たい汗が流れた。
ドアが開かないなら、別の方法で入るしかない。
彼は急いで階段を駆け上がり、屋根裏へ向かった。窓をこじ開けると、ギシッと音を立てて開いた。
冷たい夜風が彼の頬を刺した。
あとは、ユイの部屋の窓に手を伸ばすだけだった。
慎重に屋根の上を進む。しかし、湿った木材が彼を裏切った。
足が滑る。
バランスを崩した。
世界が回転する。
叫ぶ暇もなく、落ちた。
衝撃は凄まじかった。
頭蓋骨が庭の石にぶつかり、乾いた鈍い音が響く。
その瞬間、ユイの部屋の扉がゆっくりと開いた。
彼女はまだ眠っていた。
その傍らで、黒い影が彼女にそっと覆いかぶさるように――。