表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VaD  作者: shénzú
VIVA
7/40

07.Gem



 朝、珍しく寝坊した私を起こした彼。

「今日の夜、君に私の全てを話すよ」

 私は頷き、夜まで、好きな曲を踊ったり、歌ったり、日光浴をしたり、紅茶を飲んだり、少しの運動をして過ごした。


 晩御飯を食べ終わり、紅茶を飲んでいると、彼が恐る恐る、自らの境遇を話してくれた。


 彼は、とある劇団の団長の子供だった。

 その、彼が産まれた劇団にはとある伝説があった。その伝説とは、三十年に一度、才能を持った子供が現れ、その子は劇団の伝説になり、その子を表す物語が後世にまで語り継がれていく、という伝説だ。

 彼は、その子供だと思われた。しかし、彼には、演技の才能が微塵も無かった。彼にあったのは踊りの才能だけ。

 しかし、その踊りは、彼の劇団には似合わなかった。

 舞踊をいくら学んでも、どんな人に教わっても、劇団に似合う繊細な踊りにはほど遠く、振りは大振りで、重心を生かした踊り方で、劇団に似合う布のような振りではなく、まるで鈍器を振り下ろしているかのような踊り方だったらしい。

 両親は彼の踊り方に困惑した。そして、彼を舞台に立たせるのはやめよう。彼は伝説の子供ではない、と諦め、彼には裏方として働いて貰うことにした。

 彼はそれがとても悔しかったらしく、いつも大道具の影に隠れて泣いていたと照れ臭そうに話してくれた。


 そんな時、天才と呼ばれる先生が現れた。

 その先生はどんな人でも演技の天才に出来るという噂があった。

 彼は、その先生から踊りを教わった。

 すると、彼の振り付けは少しずつ劇団に似合うように変化していった。

 それと同時に彼の体型も変化していった。

 彼は、少しずつ、少しずつ、自分の個性が殺されていくのを感じたらしい。


「…それ」

 私もそうだった。


 私も、自分についての事を話し始めた。

 彼は紅茶を一口飲み、優しく数回頷いてくれた。


 彼が居た劇団は、私が居た劇団だった。

 演技を学んでいた私の親は、私こそが伝説になる子供だと思ったらしい。

 その証拠に、私には、演技と歌の才能があった。いくら成長しても、幼いまま、少女のままで変わらない姿。人形みたいだと言われた私の体格。

 私は皆から期待をされていた。

 私こそが伝説になるのだと、皆からの期待を一身に受けていた。


 身体には骨格を矯正するためのコルセットが巻かれた。

 食事は週に一度。

 背が伸びないように寝る場所は狭い箱の中で、先生は私の身体を見ては「綺麗だ」と褒めた。

 先生の指示通り、私は幼い頃からそうやって育てられてきた。


「そんな君を見ていられなかった」

 この屋敷は彼のお祖父様が彼に残したものらしい。

 お祖父は彼を可愛がってくれていて、演技が出来なくても、踊りが合わなかったとしても、彼には彼らしく生きて欲しいと願ってくれていたらしい。

 もし、何かの事情で自分らしく生きれないのだとしたら、ここにはなんでもあるから、自分一人で、自分らしく、世界から離れて生きたっていい、と、彼にだけここを教えてくれた、と言っていた。

 怖い屋敷だという噂を流したのも彼のお祖父様で、彼はお祖父様の優しさに触れ、同じように苦しんでいる子供達を救おうとしていたらしい。


 気付いたら、私は彼を抱き締めていた。

「貴方のお祖父様にお礼を言いたい」

 私がそう言うと、彼は悔しそうに頷いた。

「私も会って欲しかった」

 彼が私を大切にしてくれる理由が分かった。彼のお祖父様のお陰だった。

 ありがたかった。

 私の腕の中で鼻を啜る彼を見ていると、自分が、彼を愛しているという事に確信を持っていった。


 その日の夜、私達は同じ部屋で、同じベッドで寝た。

 お祖父様を想ってか、ぐっと目を瞑り、泣きそうな顔で下唇をぐっと噛み締めている彼。

 彼の髪を撫で、恐る恐る口付けをすると、彼は瞼を開け、わんわんと泣きながら、まるで幼子のように私を抱き締めた。


 しばらくそうしてから、少し落ち着いた彼と「もうすぐ寝ようか」と会話していた時、彼が私の顔をじっと見つめこう尋ねた。

「…したい?」

 恐る恐るそう言う彼。

 私は頷き、彼のお下がりの服を脱いだ。

「しかた、分からない」

 彼は私のお腹を撫でながらそう言った。

「私が、教えてあげる」

「どうして、知ってるの?」

「先生が教えてくれた」

 目を見開く彼、そのまま、私を強く抱き締め、私の言葉の通り動き始めた。


 彼の声は、私が思っていたよりも高くて、まるで子犬みたいで可愛かった。

 髪を撫でると安心するのか泣くのをやめるのが可愛かった。

 後から知ったけど、彼は私よりも四歳年下だった。


「犯罪に、ならないよ」

「誘拐犯がよく言う」

 私の言葉に、声を上げて笑う彼。

「明日も、一緒に寝てくれる?」

 彼の言葉に、私は頷いた。

 頷き、額に口付けをする。


「…なんで、口にはしてくれないの」

「好きなところにしてあげるよ、貴方が頼んでくれたら」

「口にキスして」

「うん」

「名前呼んで」

「ネイ」

「メタ」

「明日は、珈琲を飲もう、飲んで、二人で、色んな事話そう」

「うん」

「ケーキも食べよう、作り方、勉強して」

「食べる」

「食べよっか」

「うん」

「歌も歌って、いっぱい踊ろう」

「うん」

「きっと、おじいちゃん、見ててくれるよ」

「褒めてくれるかな」

「きっと褒めてくれるよ」

 次の日、大勢の捜索隊が現れ、私達の世界を土足で踏み荒らした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ