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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第99話 死と犠牲を

 黒い荒野を舞台に魔族と人間が殺し合う。

 両者の激突に戦術的な要素はなく、ただ互いの殺意と憎悪をぶつける狂宴と化していた。


 剣士ルインは魔族に追い詰められた末、支給された薬液を飲み干した。

 数多の剣技が記憶という形でルインに馴染み、苦戦していた魔族を切り刻んでいく。

 劇的な強化を得たルインは上機嫌に戦場を駆け巡る。

 薬液の副作用で廃人になることを彼はまだ知らなかった。


 竜騎士アロンは魂を練り固めた剣を振るっていた。

 肉体強度を無視する斬撃が、禍々しい光を放ちながら魔族を両断する。

 アロンは多くの敵を屠って奮闘したが、疲労で動きが鈍ったところを袋叩きにされて死んだ。


 賢者シエンに操られたアンデッド兵が魔族に突進していく。

 内蔵した防御術式で攻撃を弾きながら接近し、相手を掴んだ直後に自爆した。

 肉片となった後も寄り集まることで肉塊の怪物となり、魔族を圧殺するために蠢き進む。

 その過程で味方の人間を巻き込んでも止まることはなかった。


 魔術師の小隊が横一列になって上級魔族に術の集中砲火を見舞う。

 彼らの手にはシエンの編纂した魔導書があった。

 使用後の反動を意図的に書き忘れた禁術を彼らは連発する。

 一人また一人と戦死しながら、少しでも多くの敵を倒そうと命を懸けていた。


 聖堂術士のシトは魂を燃料にする杖を掲げた。

 杖を持っては恐怖で震えている。

 涙を流すシトは己の覚悟を問い詰めているところだった。

 背後から狼の魔族に噛まれた瞬間、彼女の杖は黒い稲妻を迸らせた。


 盗賊ダンバンはこの場で死ぬことを決意した。

 彼はおもむろに上着を脱ぐと、胸から生えた鎖を引き抜く。

 封印術が解けたことで心臓に装着した魔力炉が起動する。

 無限の魔力で肉体を強化したダンバンは、雄叫びを上げて魔族に飛びかかった。


 兵士は挑み、死んでいく。

 彼らの犠牲を糧に勇者は疾走る。

 途方もない数の死体から培った暴力が魔族を否定し、物言わぬ肉片へと変える。

 人智を超越した能力が戦場を薙ぎ払い、この上ない不条理を体現した。


 一方で勇者も死んでいた。

 魔族の奇襲で刺される者がいた。

 特殊な呪術で心身を溶かされた者がいた。

 味方の兵士の暴走で致命傷を負った者がいた。

 己の命を犠牲に仲間を守った者がいた。


 大義も使命も立場も身分も関係なく、等しく死が降り注ぐ。

 混沌めいた戦場は血と臓物と魂に彩られていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! ……「殺伐」という言葉では足りない程の状況だが、それでも読み進まずにはいられない。 [一言] 良いお年を!
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