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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第96話 命の認識

 数週間の移動を経て、決戦部隊には多数の死者が出ていた。

 度重なる魔族の襲撃で志願兵が犠牲になったのである。

 ただし死体は余さずアンデッドに改造されているため、総合的な戦力は減少どころか増大していた。


 ただし兵の士気はそうもいかない。

 絶えず仲間が死に続ける環境において、志願兵の精神は急速に摩耗していた。

 彼らはシエンから支給された薬品でどうにか心身の不調を誤魔化している。


 次第に増えるアンデッドと疲弊した志願兵を見て、シエンは事務的に意見を述べた。


「概ね予想通りだね。この程度の犠牲は許容範囲だ。人造勇者も減っていない」


「……人間の命をそんな風に言わないでください」


 異を唱えたのはリリアだった。

 非難の目を向けられたシエンは、特に気にした様子もなく返答する。


「僕に倫理を期待しない方がいい。感情論はよそでやりたまえ」


「…………」


 リリアが言葉に窮していると、前方の部隊からケビンがやってきた。

 険しい表情のケビンはシエンに報告する。


「この先に魔族の巣窟がある」


「迂回はできないのかな」


「無理だ。魔術で空間を歪められている。強引にこじ開けても、軍全体が通るまでは持たない」


「ふむ、奈落の領域と同種の結界だろうね。我々の妨害に特化している」


 シエンは前方を眺めながら考える。

 軍の進行方向には、黒い岩で構築された無骨な砦があった。

 砦には無数の魔族が遠目でも分かるほどの密度で待ち構えている。


「どうする。こっちも結界を構築してぶつせるか。出力勝負で押し切ればやれそうだが」


「それも悪くないがもっと単純な解決方法がある」


 そう言ってシエンは懐から紫色の光を帯びた杖を取り出した。

 彼が杖を振ると、アンデッド兵が一斉に走り出す。

 彼らは猛然と砦へ押し寄せていく。

 砦に激突したアンデッドは轟音を立てて爆ぜた。

 そのような爆発が連鎖し、砦を粉砕して崩しにかかる。


 シエンは杖を仕舞って微笑んだ。


「結界が壊れるまで爆撃する。こちらの損害はゼロだ」


 アンデッドはひたすら突撃し、砦の入口を粉々にした。

 そこから砦内に侵入すると、魔族に抱きついて次々と自爆する。

 至近距離で爆発を受けた魔族は道連れにされる形で命を散らすことになった。


 魔力感知で戦況を探ったリリアは、楽しげにソキと話すシエンを見つめる。


(この人にとって命は数字なんだ。それ以上でもそれ以下でもない)


 リリアは賢者シエンに対する認識を改めざるを得なかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まぁ、犠牲で魔王を倒せるなら安いよな。滅亡の危機なんだから
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