第93話 戦死の覚悟
人造勇者の集団が現れた後、彼らとはまた別の軍隊が続々と登場する。
彼らは此度の戦いへの参加を表明した志願兵だった。
立場は冒険者や傭兵から聖職者、騎士、盗賊まで多種多様である。
志願兵の顔には緊張や不安が浮かぶも、一様に決意を固めている。
この場において怯えや後悔を見せる者は皆無だった。
シエンは未だにケビンと言い合っていた。
仕方ないので代わりにソキがリリアに解説をする。
「ご主人様は志願兵と契約魔術を交わしています。逃亡や命令違反、裏切りを防止するものです」
リリアが目を丸くした。
彼女は志願兵とソキを交互に見る。
「彼らは拒まなかったのですか?」
「契約魔術を拒否した者は追い返していますから。ここに集ったのは捨て身で戦える者だけです」
ソキは当然のように述べる。
彼女の口ぶりは冷静で、一切の感情を排したものとなっていた。
故にリリアも気軽に話を遮ることができない。
皮肉や辛辣さの中に人間的な情も垣間見えるシエンと違い、ソキはとにかく徹底して合理的で冷酷だった。
次にソキは志願兵の一角を指し示す。
そこでは揃いのローブを着た六人の子供が待機していた。
子供達はそれぞれ異なる色の杖を携えており、リラックスした様子で会話している。
「あの子供達は六色術師と呼ばれる若き英雄です。実験体にされていたところを勇者に救われ、現在では比類なき武功を立てています。彼らの連携は並の人造勇者すら凌駕しますよ」
「そんな逸材が……」
「別に珍しくありません。人造勇者の影響力は何も戦場だけではありません。数多の記憶を引き継ぐ彼らは、様々な人間の成長を促すのです」
説明を聞く間、リリアは何か言いたげな表情をしていた。
しばらく黙っていた彼女だが、意を決した様子で恐る恐る尋ねる。
「ソキさん。あなたも人造勇者なんですよね」
「ええ。それが何か」
「……いえ、大丈夫です。すみません」
「そろそろ出陣します。あなたもご主人様と契約魔術を交わしたそうですが、祖国に遺書は置いてきましたか。これより先は生存率が著しく低い戦いとなりますから、くれぐれもご注意ください」
そう言ってソキは足早に魔術工房へと戻る。
一度も振り返らず、辺りが凍えるほどに冷たい気配だった。
リリアは彼女に返す言葉がなく、口を噤んで見送ることしかできなかった。




