第70話 闇夜の蹂躙
都市内を白銀の狼が疾走する。
背中にはミランダが乗っていた。
彼女は魂の宿る魔力を物質化し、斧の形で固定して振り回している。
縦横無尽の斬撃が迫りくる教徒の首を刎ね飛ばしていた。
返り血を浴びるミランダは愉悦と快楽に満ちた表情を浮かべる。
「うふふふ、楽しいわぁ!」
「お前はそうだろうな! くそ、せっかく潜入できたってのに!」
「ハロちゃんは固すぎよぉ。もっと気楽にやらないと」
「あっ、おい! なんで酒飲んでるんだよっ!?」
ミランダは片手に酒瓶を持っていた。
街中を走る途中に盗んだものだ。
さらにハロルドの背中の毛を毟っては美味そうに食べている。
毟られるたびにハロルドは声を上げていた。
そんな彼らに四方八方から教徒が襲いかかる。
彼らは無表情のまま、聖句を刻まれた短剣や槍を掲げていた。
「侵入者だ」
「追え」
「殺せ」
「贄だ」
「侵入者」
「潰せ」
「早く」
「逃がすな」
教徒がハロルドにしがみつき、武器を突き立てる。
次の瞬間、狼の毛が鋭利な棘となって教徒を串刺しにした。
死体を振り落としたハロルドは遠吠えを響かせる。
迫る教徒や遠距離攻撃を打ち落としながら、ミランダは眉を寄せた。
「気色悪いわね。これだから人間は嫌いなのよ」
「そんな風に言うなっ! 良い人間だっているんだぞ!」
進路上に数人の教徒が立ちはだかる。
刹那、急加速したハロルドが全員の首を噛み千切った。
鮮血を迸らせる教徒達は何もできずに崩れ落ちた。
その様を見たミランダは意地の悪い笑顔で言う。
「ハロちゃんの方が人間嫌いじゃない?」
「……本能だから仕方ないだろ」
二人はノンストップで都市を駆けていく。
教徒と兵士が殺到するが、二人を止められる者はいなかった。
血肉の雨を降らせながら彼らは突き進む。
「教祖はどこにいるのかしら」
「たぶん城だろ。偉い奴は贅沢してるもんだ」
「じゃあ迷うことはなさそうね」
遠くに純白の城がそびえ立っていた。
魔力の灯により、深夜でも美しく輝いている。
彼らが視線を城に定めた時、巨漢の教徒が前方の道を塞いだ。
身体強化を発動した巨漢の教徒は、野太い声で宣言する。
「ここから先は通さんッ!」
「そう? じゃあ死んで」
ミランダの持つ魂の斧が槍に変形し、一瞬で巨漢の教徒を貫いた。
魂を捉える攻撃は相手の物理的な防御を無視し、速やかに命を奪い取る。
ハロルドは減速せずに教徒の死体を飛び越えて進んだ。
「不味い魂ね。吐いちゃいそう」
「味に違いがあるのか」
「あるわよ。甘かったり苦かったりね」
二人は暢気に会話をする。
その先にはまだ数千人の教徒が待っていた。




