表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/116

第7話 人造勇者の戦果

 リックが欠伸と共に伸びをした。

 その際、布を巻いた腹を押さえて顔を顰める。


「いててててて……」


「重傷なのか」


「あー……そこそこな。傷は縫ってもらったが、鎮痛薬を貰う余裕はなかった。今回の討伐報酬もこの処置で使い切っちまった」


「そんなもんだろ。報酬なんて見せかけの餌だ。治療やら食費で消えるように仕組まれてる」


 二人が愚痴り合っていると、周囲の奴隷達がざわめいた。

 彼らの視線の先には銀髪の勇者が立っていた。

 勇者は馬車の死体を順に確認していく。

 その様子を見るリックは、畏怖と憧れを抱いて呟いた。


「あれだけ活躍して無傷かよ。さすが勇者様だ。真似できる気がしねえなぁ。おまけに美人だし」


「嫁さんが欲しいなら口説いてきたらどうだ」


「なっ、なななな何言ってんだ!? そんなの無理に決まってるだろぉッ!」


 リックが顔を赤くしてひっくり返りそうになり、また腹を押さえて痛がる。

 大げさすぎる反応に、ケビンは呆れるしかなかった。


 リックの大声に興味を持ったのか、勇者が二人に注目する。

 目が合ったリックはだらしない笑顔で手を振った。

 そしてうつむいて震え始める。


(感動してんのか?)


 ケビンはため息を吐く。

 勇者が二人を見ていたのは僅かな時間で、すぐに向き直って馬車の確認を再開した。

 リックは黙り込んで下を向いている。

 遠くの馬車へ向かう勇者を眺めながら、ケビンはふと考える。


(魔王を倒す英雄……)


 勇者が現れて半年が経過した。

 王国各地で勇者達は、具体的に何人いるのか公開されていない。

 きわめて少数精鋭であることだけが共通の認識だった。


 突如として登場した勇者達はとてつもない力を持つ。

 今まで人類が敵わなかった魔族を撃退し、次々と領地を奪還していた。

 彼らが魔王討伐を実現する日は遠くないとされている。


 世間だと勇者の正体は不明とされている。

 ただし"災厄の賢者"が関与しているため、様々な術式を埋め込まれた改造人間という説が有力だった。

 賢者が死体を集めているのも新たな兵器開発のためだと囁かれている。


 もっともケビンは本人から真実を聞かされており、人造勇者の計画は知っている。

 魔術知識のない彼はメカニズムを理解できなかったが、死体の記憶を勇者が引き継ぐ特性については印象に残っていた。

 口外するなとは言われていないものの、面倒事が嫌いなケビンはそのことを秘密にしている。


(俺もいつか勇者の一部になるのか)


 奴隷からの脱却が現実的ではないことをケビンは分かっている。

 所詮は叶わない夢であると捉えていた。

 実際、彼の想定は正しく、奴隷が自分の身分を買い戻せる望みは非常に低い。


 なるべく苦しまずに死ぬこと。

 それがケビンのささやかな望みだった。


「なあ、余ってるなら水をくれ。喉が渇いた」


 ケビンがリックの肩を揺らす。

 しかし返事はない。

 無視されたと思ったケビンは眉を寄せる。


「おい。無視すんなよ」


 もう一度揺らそうとした時、リックが倒れた。

 地面に頭を打っても声を出さず動かない。


 リックは死んでいた。

 腹から大量の血が流れ出している。

 戦闘後の応急処置が万全ではなかったのだ。


 彼の横顔は青白く、しかしどこか安らかな表情だった。

 自らの死について気付かなかったのかもしれない。


「…………」


 ケビンはしばらく死体を見る。

 やがてため息混じりに死体の懐を漁り、革の水筒をくすねた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ