第68話 進行する症状
その日以降、ハロルドとミランダは行動を共にするようになった。
正確にはハロルドがいくら拒んでも、ミランダが勝手についてくるようになったのである。
二週間も経った頃にはハロルドも諦めてしまい、自然と二人組を結成していた。
彼らの行動原理は単純だ。
僻地に潜む魔族か人間の悪党を狩る。
ただそれだけだった。
これによりハロルドは殺戮衝動、ミランダは食欲を満たすことができた。
どうしても本能を抑え切れない時は、すべて解放して殺し合った。
二人とも不死身なので決着はつかない。
それでも何度も殺し合って欲求解消した。
他人に迷惑をかけず、効率的に解消するにはうってつけの方法であった。
半日ほどの殺し合いを済ませた二人は、そばにあった湖で体を洗う。
ハロルドは鱗に覆われた腕を見て舌打ちした。
「畜生、人間に戻りづらくなってきた。能力が不安定だ」
鱗を剝がしても再生してしまう。
深刻な表情で悩んでいると、ミランダが抱き着いた。
彼女は腕の鱗をめくって食べ始める。
ハロルドは眉間に皺を寄せた。
「やめろって」
「ごめんなさい。反射的に手が出ちゃうの」
謝りながらもミランダは鱗を食べ続ける。
しまいにはハロルドの腕を掴み、そのまま齧り出していた。
やめさせても無駄だと知っているハロルドは、腕の痛みを無視して話を進める。
「お前は何か変化はないのか」
「そうねえ……人間に対する憎悪が膨らんでるわね。あと食欲もどんどん増してるわ」
「しっかり悪化してるな」
「別に気にしてないけどね。ハロちゃんが好きな気持ちは無くならないし」
ミランダは美味そうに咀嚼しつつ述べる。
ハロルドは真剣な表情でミランダの目を見た。
「俺は外面、お前は内面……互いに魔族へと近づいている。そのうち手遅れになるぞ」
「じゃあどうやって解決するの?」
「賢者に頼む。あいつならどうにかできるはずだ。借りを作るのは癪だが、お前だけでも処置してもらえ」
ハロルドがそう告げると、ミランダが首を傾げた。
鱗を食べ終えた彼女は尋ねる。
「ハロちゃんは治さないの?」
「俺は必要ない」
「じゃあ私もやらない。お揃いでいたいもの」
「本気か? このまま心が魔族に染まり切ってもいいのかよ」
「ええ、ハロちゃんを愛する気持ちさえ無事ならどうでもいいわ」
「……狂ってやがる」
「そこもお揃いね」
微笑むミランダを見て、ハロルドは深々と息を吐く。
これ以上の説得や説教は無駄だと悟り、ハロルドは彼女の頭を撫でた。




