第67話 魔女の力
「半人半魔にも様々な体質があるの。たとえば私は魔族でないと飢えを満たせない。だから殺して食い続けるのよ」
「だから魔族を食ってたのか……それにしても無茶すぎるだろ。よく今まで死ななかったな」
「食べるたびに力が増してるから平気。人間からも化け物扱いされた挙句、魔女と呼ばれるようになっちゃったけどね」
美女は遠い目をして語る。
一方、ハロルドは彼女の魔力を感知する。
美女が纏う魔力は異質だった。
そこには濃縮された魂のエネルギーが多量に含まれている。
本人は無自覚だが、捕食した魔族の魂を蓄えているのだ。
その影響で彼女は魂まで響く攻撃を放つことができる。
さらに強固な魂は不変にも等しい耐久性を示す。
これが損傷した肉体をも復元する効果を発揮し、不死身を実現しているのだった。
魂の捕食と肉体強化への活用。
それこそが美女の持つ半人半魔の特性であった。
瞬時に分析したハロルドは頷く。
(魔女と呼ばれるのも納得の能力だな)
多少の同情を抱きつつ、ハロルドは思考を切り替える。
美女の素性や過去は悲惨だが、今の彼とは無関係なものだった。
それより重大なことがあるのだ。
ハロルドは話を本題へと軌道修正する。
「今更だが、どうして俺についてくる。何が狙いだ」
「好きになったから一緒にいたいだけよ」
美女は躊躇いなく断言した。
それはハロルドが薄々ながら予想していた展開だった。
同時に目をそらして否定したかった事態でもある。
凍り付くハロルドをよそに、美女は熱烈な雰囲気で言葉を続けた。
「こんな気持ち、初めてなの。人間なんて大嫌いだったのに! 恋ってこんなに素晴らしいものなのね!」
「勝手にはしゃぐな。耳が痛い」
「あらごめんなさい」
我に返った美女は胸を張る。
そして自信満々に名乗ってみせた。
「私、ミランダ。あなたの名前は?」
「……ハロルド」
「よろしく、ハロちゃん」
美女ことミランダは強引に握手をしようとする。
その時、ハロルドの頭部が狼に変容した。
次々と明かされる情報と怒涛の展開に混乱し、能力が暴発したのである。
ハロルドは自分の顔を触って驚く。
首筋や手も同様に変容して毛に包まれてしまった。
「うおっ」
「あら、美味しそう」
ミランダが涎を垂らしてハロルドの額に齧り付く。
脳まで達する痛みにハロルドは絶叫した。




