第6話 死者の帰路
ゴブリンとの戦闘を生き残った奴隷部隊が荒野を歩く。
彼らの一部は数人がかりで馬車を曳いている。
中には死体が詰め込まれていた。
そこにゴブリンと人間の区別はなく、潰れた死体から血が流れ出している。
あまりにも粗雑な扱いだが文句を言う者はいない。
部隊の向かう先は賢者の工房だった。
戦死者や魔族の死骸はもれなく運搬する指示なのだ。
そこには青年ケビンの姿もあった。
夕暮れを迎えた辺りで部隊は休息を取る。
各々が付近に散って休む中、ケビンは石に腰かけた。
空の水筒を恨めしそうに睨んでいると、背後から話しかけられる。
「隣いいか」
ケビンは無言で振り返る。
そこに立っていたのは首輪を着けた少年だった。
顔の半分を覆う布には血が滲んでいる。
右足は膝から下がなく、少し太い木の枝を杖代わりにしていた。
少年は腹を庇いながらケビンの隣に座り、愚痴っぽい口調で嘆く。
「ツルハシで滅多打ちにされた。片目が潰れて足もこの有り様だ。もう戦えねえよ」
「そうか」
「おいおい、薄情だな。もっと慰めの言葉とかないのかよ」
「そもそもお前は誰だ」
ケビンがそう言うと、少年はハッとした顔になる。
そして人好きのする笑顔で手を差し出した。
「リックだ。よろしく」
「……ケビン」
ケビンは不愛想に応じる。
握手の後、リックは空を仰ぎながらぼやいた。
「今回の戦いで半分くらい死んだ。補充しても次でまた半分死ぬ。使い捨ての奴隷にしてもやってられねえよなぁ」
「仕方ないだろ。俺らの価値なんてその程度だ」
「うはっ、悲しいこと言うなよ。否定できねえけどさ」
リックは大げさに肩をすくめた。
それから彼は楽しそうに語る。
「逃げたゴブリンは勇者様が殲滅したらしい。苗床になった村の女も助けたんだって。本当にすげえよな」
「勇者になりたいのか」
「そりゃもちろん。強くなって魔族を倒しまくってチヤホヤされたい。美人の嫁さんをもらって子供は二人欲しいね。デカい家を建てて幸せに暮らすんだ」
「大きい夢だな、頑張れ」
ケビンは投げやりに言う。
それでもリックは嬉しそうに頷いてみせた。
「ケビンの夢は何だ?」
「別に。強いて言うなら奴隷をやめたい」
「良い目標じゃねえか! さっさと稼いで身分を買い取ろうぜ!」
「そう簡単にいけばいいんだけどな……」
ケビンは暗い表情で呟く。
彼の瞳に夢は映っていなかった。