表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/116

第6話 死者の帰路

 ゴブリンとの戦闘を生き残った奴隷部隊が荒野を歩く。

 彼らの一部は数人がかりで馬車を曳いている。

 中には死体が詰め込まれていた。

 そこにゴブリンと人間の区別はなく、潰れた死体から血が流れ出している。

 あまりにも粗雑な扱いだが文句を言う者はいない。


 部隊の向かう先は賢者の工房だった。

 戦死者や魔族の死骸はもれなく運搬する指示なのだ。

 そこには青年ケビンの姿もあった。


 夕暮れを迎えた辺りで部隊は休息を取る。

 各々が付近に散って休む中、ケビンは石に腰かけた。

 空の水筒を恨めしそうに睨んでいると、背後から話しかけられる。


「隣いいか」


 ケビンは無言で振り返る。

 そこに立っていたのは首輪を着けた少年だった。

 顔の半分を覆う布には血が滲んでいる。

 右足は膝から下がなく、少し太い木の枝を杖代わりにしていた。


 少年は腹を庇いながらケビンの隣に座り、愚痴っぽい口調で嘆く。


「ツルハシで滅多打ちにされた。片目が潰れて足もこの有り様だ。もう戦えねえよ」


「そうか」


「おいおい、薄情だな。もっと慰めの言葉とかないのかよ」


「そもそもお前は誰だ」


 ケビンがそう言うと、少年はハッとした顔になる。

 そして人好きのする笑顔で手を差し出した。


「リックだ。よろしく」


「……ケビン」


 ケビンは不愛想に応じる。

 握手の後、リックは空を仰ぎながらぼやいた。


「今回の戦いで半分くらい死んだ。補充しても次でまた半分死ぬ。使い捨ての奴隷にしてもやってられねえよなぁ」


「仕方ないだろ。俺らの価値なんてその程度だ」


「うはっ、悲しいこと言うなよ。否定できねえけどさ」


 リックは大げさに肩をすくめた。

 それから彼は楽しそうに語る。


「逃げたゴブリンは勇者様が殲滅したらしい。苗床になった村の女も助けたんだって。本当にすげえよな」


「勇者になりたいのか」


「そりゃもちろん。強くなって魔族を倒しまくってチヤホヤされたい。美人の嫁さんをもらって子供は二人欲しいね。デカい家を建てて幸せに暮らすんだ」


「大きい夢だな、頑張れ」


 ケビンは投げやりに言う。

 それでもリックは嬉しそうに頷いてみせた。


「ケビンの夢は何だ?」


「別に。強いて言うなら奴隷をやめたい」


「良い目標じゃねえか! さっさと稼いで身分を買い取ろうぜ!」


「そう簡単にいけばいいんだけどな……」


 ケビンは暗い表情で呟く。

 彼の瞳に夢は映っていなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 暗すぎ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ