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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第57話 新たな目標

 魔術の工房の客間にて、賢者シエンは優雅に紅茶を飲む。

 彼は対面に立てかけられたマギリに話しかけた。


「リグルの記憶はどうだね。実力向上に役立ちそうかな」

 

「全然だめだ。あの爺、本当に技を磨いてねえんだよ。馬鹿力だけを鍛えてあの強さだった。ふざけてやがるぜ」


 マギリは呆れた口調で言う。

 その反応を見たシエンは指摘した。


「文句を言う割には嬉しそうだね」


「……まあな。あいつの人生を知ることができた。それが一番の収穫だ」


「ふむ、素直な感想だ。精神的な成長が見て取れる」


 シエンは受け答えを反芻しながら頷く。

 瞬きをしない彼の目は、マギリの心境を一片も見逃さないように観察している。

 書面上や口頭の報告からは感じ取れない、あらゆる変化を探し求めていた。

 首を傾けたシエンは質問を重ねる。


「これからどうするのだね」


「エナを一人前の剣士に育てる。それと各地を巡って新兵を鍛え上げる」


「ほう、最前線から退くのか。リグルの遺志を継いで魔王討伐に直行すると思ったが」


 シエンは意外そうに笑う。

 マギリは苦々しい声で語る。


「今の俺様は未熟だ。魔王に挑む資格がない。他人の技がどうだと喚いてばかりで、己の弱さから目を背けていた」


「背ける目なんて持ってないだろう」


「うるせえ黙って聞け」


 素早く反応したマギリが黙り込む。

 言葉に窮しているのではない。

 自分の心を見つめ、覚悟の重みを確かめているのだった。

 やがてマギリは穏やかに打ち明ける。


「一流の剣士を探すより育てようと思ったんだ。そうしていつか胸を張って勇者を名乗れるようになったら魔王を斬ってやる」


「なるほど。それで彼女を選んだわけだ」


 シエンの目は、マギリの隣に座る傭兵エナへと向けられた。

 話題が自分に移ったことで、エナは背筋を伸ばして緊張する。

 その姿に微笑ましさを感じつつ、シエンは質問を投げた。


「魔剣に指名された気分はどうだね」


「正直、自信ないッスね。他の勇者さんに任せた方がいいとは思ってるんスけど……」


「俺様を扱っていいのは人間だけだ。記憶を寄せ集めた剣士なんて認めねえよ」


「こんな調子ッス」


「強情な部分は変わっていないようだね。逆に安心したよ」


 シエンは薄く笑って紅茶を飲む。

 その間、マギリとエナは子供のように言い争っている。

 最終的には使用人ソキに叱られて強制中断することになった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 結城さんが2年前からいろんなことに挑戦してくれて嬉しい、 しかも絶対毎日更新なんだから飽きようがない! [気になる点] 次の勇者は誰かな? 願わくば魔王を倒して終わって欲しいんだけど…
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