第56話 戦士の最期
深い闇が静かに消えていく。
術者の死を引き金にその存在を保てなくなったのだ。
周囲には自動攻撃に利用されてきた無数の死体が散乱する。
人間と魔族の死体がどろどろに混ざり合ったそれらは、闇と同じく崩れ去っていった。
元の荒野に戻ってきたリグルはよろめき、そのまま地面に倒れ込んだ。
額を打ち付けたが反応はない。
寄生を解いて一本の剣に戻ったマギリが必死に呼びかける。
「やったぞ爺! あんたが術者を斬った! 魔王への道を開いたんだっ!」
リグルは動かない。
彼はただ荒野に突っ伏していた。
ますます焦ったマギリは大声で怒鳴りつける。
「おい起きろ! しっかりしろ! 勝手に死ぬな! 踏ん張って耐えろよッ!」
「うる、さいのう……穏やかに寝かせて、くれても……いいじゃろう……」
リグルが掠れた声を発する。
彼は僅かに目を開いてマギリを見つめた。
口や鼻から血がこぼれ、呼吸は今にも止まりそうだった。
「ワシは……もう、死ぬ。命を、使い果たした」
「頑張って起き上がれ! 気合でなんとかすんのは得意だろ!」
「無茶を、言うでない……老骨になぁ……鞭を打ち過ぎたんじゃ。よくやった方じゃよ」
リグルは穏やかな笑みを浮かべる。
それから懐かしそうに呟いた。
「楽しかった、のう……ワシらで、たくさんの魔族を斬って、やったなぁ……」
「そうだな。あんたはいつも突撃して無双した。怪我をしても止まらず、絶体絶命の人間軍を救ったりした」
「暗黒騎士団の時は、危なかったのう」
「武器が俺様じゃなけりゃ、あんたは間違いなく死んでいた」
「ワシなら、自力で切り抜けられたはずじゃ……お主の力を借りずともな」
「強がるなよ! あんた今と同じくらいボロボロだったろうが!」
二人は語り合う。
どちらも楽しそうな様子で、長年連れ添った友人のようであった。
これまでの戦いを振り返る中、リグルはふと話題を変える。
「……のう、マギリ」
「なんだよ」
「ワシは一流の剣士になれたかのう」
その問いかけにマギリは黙る。
数拍を置いて、彼は罵声混じりに答えた。
「ふざけんな。そんなわけねえだろうが。あんたは三流未満の脳筋だ」
「ほほう……手厳しいのう」
「だが、最高の使い手だった。心の底から尊敬している」
マギリの告白にリグルが驚愕する。
続けてマギリは本音を伝えた。
「魔剣の勇者リグル。あんたのことは決して忘れない。あんたが切り開いた道は必ず無駄にしない……だから、安心して逝ってくれ」
「…………そうか」
リグルは目を瞑って笑う。
それから彼が目を開くことはなかった。
リグルは死んだ。
戦いの中に死を求めた彼は、安らかな表情で最期を迎えた。
間もなく三人の勇者とエナが駆け付けた。
リグルの遺体を前にエナは泣きじゃくった。
その声はいつまでも荒野に響いていた。




