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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第55話 命の前借り

 活性化した肉体の具合にリグルは高笑いした。

 力を込めれば込めるほど斬撃は強まり、黒い衝撃波が稲妻のように迸る。

 その軌跡にいた死体は例外なく消滅していった。


「ほっほっほ、これは爽快じゃのう」


「呑気なこと言ってんな! 俺様が言ったことを忘れたのか。寄生の反動であんたは死ぬんだぞ!」


「……それぐらい分かっとるよ。肉体の感覚からして、そう長く持たぬじゃろうな」


 リグルは穏やかに呟く。

 彼は全身を巡るマギリの力を知覚していた。

 限界以上の性能を引き出された肉体は破綻し、徐々に崩れようとしている。

 今はまだ寄生による強化で保たれているが、それも時間の問題だろう。

 瞬間的に跳ね上がった力は無償ではなく、寿命の前借りに過ぎなかった。


 どこか悟った様子のリグルに対し、マギリは声を荒げて反論する。


「この戦いがあんたの最期だ。分かってんならふざけてないで――」


「だからこそ燃えるんじゃろうが。ワシの死合いがここにある。無邪気に楽しんで何が悪い」


 リグルは前を向いたまま言う。

 黒い刀の斬撃が死体を次々と吹き飛ばす。

 獰猛な動きに反して、リグルの声音は優しかった。


「最期の相手は魔王ではなかったが不満はない。お主のおかげで最高の気分じゃ」


「爺……」


「何をボサッとしとるんじゃ! お主の間合いだけがら空きじゃぞ、さっさと迎撃せい!」


「偉そうに指図すんな!」


 自動攻撃の勢いがまた増した。

 しかし、リグルとマギリを押し返すことは叶わない。

 彼らの刃は際限なく、強靭で、疾くなっていく。


「まだいけるか?」


「余裕じゃよ!」


 ほどなくして、闇ばかりの領域内に変化が生じた。

 二人の向かう先に小さな石像が立っている。

 うっすらと苔の生えたそれは、あちこちが陥没するか欠けており、元の形状を推察できなくなっていた。

 マギリが白い刀で石像を指し示す。


「見えたぞ。あれが術者だ」


「ただの像にしか見えんが……」


「奈落の領域を成立させるために、自分を呪いで縛ってんだよ。だからこんなに強力な効果なんだ」


 二人の前に無数の死体が立ちはだかる。

 これまでとは異なり、堂々と姿を晒した妨害であった。

 最終防衛であるその戦力を、二人の刀が容赦なく切り刻む。


「死体の目を使って敵を視認し、遠隔操作で滅多打ちにする。闇の視界不良も合わされば万全だよな。難攻不落と呼ばれるのも納得だ」


 二人は石像の前に辿り着いた。

 白と黒の刀が振り上がる。


「だが俺達には通用しない。てめえはここで死ね」


「良い戦いじゃったぞ。感謝する」


 石像に告げた二人は同時に刀を振り下ろす。

 交差した斬撃が石像を割り、周囲の闇にも亀裂を走らせる。

 刹那、奈落の領域は崩壊を始めた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「呑気なこと言ってんな! 俺様が言ったことを忘れたのか。寄生の反動であんたは死ぬんだぞ!」 >「……それぐらい分かっとるよ。肉体の感覚からして、そう長く持たぬじゃろうな」  文字通…
[良い点] 良い死合いだった [一言] 合掌!
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