第54話 心身一体の刃
マギリの身体が融解し、剣からスライムのような軟体に変質した。
そこからリグルの皮膚に馴染むようにして溶け込んでいく。
自動攻撃を走って避けつつ、リグルは己の肉体の異変に気付いた。
これまでに受けた傷が塞がり、体力も湧き上がってくる。
すっかり回復したリグルは驚く。
「むっ、これは……」
「寄生だ! 俺様とあんたの身体と混ぜた状態になった! 一時的に傷は治るし、身体能力も上がるが油断すんなよ! 脳を潰されたら即死だからなッ!」
説明と警告の直後、リグルの左右の手から刀がせり出してきた。
右は木目のある白い刀、左は禍々しく脈立つ黒い刀だった。
それぞれから視認できるほどに濃密な魔力が滲み出している。
白い刀が閃き、一瞬にして自動攻撃を解体した。
純白の波動が周囲へ浸透し、飛んできた歯や牙や骨を蒸発させる。
最短最速の動きから為る絶技であった。
リグルは何もしておらず、刀が勝手に動いたのだ。
その光景にリグルが感心していると、刃からマギリの声が発せられる。
「右腕は俺様が操る! 歴代の使い手の記憶があるから役立つはずだッ!」
「ワシは左腕じゃな」
「二刀流は嫌か?」
「まさか! お主がワシについてこれるか心配なだけじゃよ」
「うるせえな爺! てめえこそ勝手にくたばるんじゃねえぞッ!」
発破をかけられたリグルが大笑いする。
そして黒い刀を強く握り込み、ただ全力で振るった。
漆黒の衝撃波が押し寄せる死体を木っ端微塵に消し飛ばす。
荒々しい力の濁流は留まることなく轟き広がり、リグルの進む道をこじ開けてみせた。
「やるぞ!」
「おう!」
白と黒の斬撃が連なって輝く。
圧倒的な密度で迫る死体が無抵抗に粉砕された。
どの角度から攻めても突破できない。
真正面から切り崩されて崩壊していく。
一心同体となった二人を止められる存在はいなかった。
満身創痍の肉体は再生し、無限に漲る魔力を以て加速する。
息が合わなければ成立しない寄生状態の二刀流は、この上なく本領を発揮していた。
自動攻撃の激しさがさらに増す。
術者の焦りと苛立ちが反映されているのか、執拗な攻め方になっていた。
それでもリグルとマギリは倒れない。
敵が強くなるほど、彼らは歓喜して力を高める。
殺し合いに魅せられた狂気は底無しであり、陰湿な術師が受け止められる代物では決してなかった。




