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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第53話 奥の手

 数千の斬撃が巻き上がって襲いかかる。

 リグルは衝撃波の連打で対抗するも、相殺し切れずに傷を負う。

 それでも踏ん張って耐え、後退することだけはなかった。


 死角から無数の歯が発射される。

 リグルは腕を振って遮り、首筋への命中を防いだ。

 歯が前腕に刺さって骨まで達する。


 強烈な痛みにもリグルは反応を示さない。

 既に満身創痍であり、歯や爪は他の各所にも突き立っている。

 追加で増えたところで認識できない段階に入っていたのだ。


 些細な身動きが激痛が走る状態でも、リグルはひたすら前に進み続ける。

 多量の血を流して歩く姿は、まだ死んでいないのが不思議なほどであった。

 気力を振り絞るリグルは、傷だらけの肉体を引きずっていく。


 一方、マギリは葛藤していた。

 彼自身もまた自動攻撃で消耗していたが、そのようなことはまったく気にしていない。

 マギリの思考は別のことへ及んでいた。

 やがてリグルが倒れかけたその時、マギリは緊張を孕んだ声を発する。


「……おい爺」


「しつこい、ぞ……ワシは諦めぬ。絶対に……術者を……」


「説得じゃねえよ、勘違いすんな。これは勝つための提案だ」


 マギリがそういった瞬間、リグルの目の色が変わった。

 自動攻撃を強引に跳ね除けると、回避を意識した動きで駆け出す。

 会話の続行を優先し始めたのだ。

 それを察したマギリは早口で確かめる。


「このままじゃ負ける。それは分かってるな?」


「…………うむ。そうじゃな」


「一つだけ打開策がある。博打に近い方法だが、反撃の可能性は生まれる」


「ならば今すぐ使え! ワシは手段を選ばんぞ!」


「代償で死ぬことになってもか?」


 マギリの言葉にリグルは眉を寄せる。

 さすがに聞き流せない内容に、リグルは低い声で尋ね返した。


「どういうことじゃ」


「俺様の固有能力なら逆転できるかもしれねえ。だがしかし、あんたは反動で必ず死ぬ。つまり良くて相討ちだ。それでも――」


「発動せよ」


「は? おいふざけんなよ。ちゃんと考えてから」


「老いぼれの命を惜しむでない。ワシが死んでもおぬしが生き延びれば勝ちじゃろうが」


 リグルは自動攻撃を捌きながら言う。

 すべてを覚悟した表情は穏やかで、そして強烈な戦意を湛えていた。


 この絶体絶命の状況で、リグルは期待しているのだ。

 彼はマギリの提案を心の底から信頼していた。

 だから喜び、託そうとしている。

 リグルは念押しで懇願する。


「魔剣のマギリ。おぬしの力を貸してくれ」


 マギリは咄嗟に言葉を返せなかった。

 全身が燃えるように熱く、激情によって小刻みに震えるのを自覚した。

 その気持ちの正体をマギリは理解していた。

 故に彼は感謝を込めて応答する。


「——任せとけ、リグル」


 マギリは能力を解放した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] じ…爺さん…魔王に挑むんじゃなかったのかよ!?
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