第50話 極上の獲物
マギリが三人の勇者に尋ねた。
「他に使えそうな情報はあんのか?」
真っ先に挙手をしたのはルーンミティシアだった。
彼女は悔しげな表情で語る。
「わたくしの結界術で試しましたが、短時間は攻撃を遮ることができました。ですがそれだけです。根本の解決には至りませんでしたわ……」
「領域の術者はおそらく魔王軍の幹部だろう。上級魔族の中でも上澄みに位置する奴だ。今のところ対抗できる魔術師が人間側にいない状況だ」
「魔王軍の幹部……良いのう」
ケビンが推測を聞いて、リグルは獰猛な笑みをこぼす。
一方、ラルクは冷静沈着に話す。
「姿を変えて何度か領域内に入った。魔族に擬態した時だけ、初撃までの猶予が僅かに延びた。つまり自動攻撃の開始は術者が視認して決めている可能性が高い」
「それが弱点になるんスか?」
「術者の判断速度は遅かった。領域の維持に意識を割いているためだろう。したがって接近戦に持ち込めば勝機は大いにある」
やり取りを聞いていたリグルは何度も頷く。
彼は小声で嬉しそうに呟いた。
「ほほう……短期決戦で術者を斬り殺せばいいわけじゃな。単純明快な作戦じゃ」
「いつもと同じじゃねえか。というか爺はそれしかできねえだろ」
「否定はせぬよ」
ケビンが野営地を指差し、それからリグル達に告げる。
「数日後、人造勇者だけの精鋭部隊で術者を狩る。奈落の領域は生身の人間には厳しい。俺達が突破するまで待つか、他の戦場へ行ってくれ」
「いや、待っていられん。術者はワシらが倒す。誰にも獲物は譲らんぞ」
「は……?」
呆然とするケビンをよそに、リグルはやる気に満ち溢れていた。
これにはさすがのマギリも忠告する。
「やめとけ。今回は相性が悪すぎる。魔王と戦う前に死ぬぞ」
「目の前に難攻不落の敵がいれば、胸が高鳴るのも仕方あるまい。相性なんぞで諦めるわけなかろうが」
リグルの意志は固く、一切の揺らぎがなかった。
むしろ情報を聞いて気力を滾らせている。
「たとえ道半ばで死のうと構わん。存分に殺し合うではないか」
歩き出そうとしたリグルの前にエナが立ちはだかった。
彼女は不安そうな面持ちで懇願する。
「——絶対、生きて帰ってきてくださいね」
リグルは一瞬だけ優しい笑顔になる。
彼は何も答えずにエナの横を通り過ぎると、躊躇なく奈落の領域へ踏み込んだ。




