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第5話 薄氷の上の命

 降りしきる雨の中、数百体のゴブリンが前進する。

 先頭を突き進むのはツノオオカミに騎乗した部隊だ。

 ぬかるんだ大地をものともせず、ゴブリン達は雄叫びを上げて突き進む。


 彼らを待ち構えるのは人間の集団だった。

 ほとんどが粗末な衣服を着た男で、金属製の黒い首輪を着けている。

 武器は剣や槍や斧など統一感はい。

 後方には揃いの鎧を着た兵士も控えていたが、全体で見るとごく少数だった。


 間もなく両陣営が激突する。

 加速したゴブリンの騎乗部隊が人間を蹴散らした。

 咄嗟の防御では意味を為さず、勢いに轢き潰されるか、槍で胴体を貫かれている。

 初撃で人間の陣形を破ったゴブリン達は、そのまま力任せの蹂躙を開始した。

 戦局は一方的なものへと傾いていく。


 そんな中、青年ケビンは地面を這っていた。

 なるべく目立たないように、時には死体に紛れてやり過ごす。

 一度だけゴブリンの槍で狙われたが、穂先が首輪に弾かれたことで助かった。

 ケビンは首輪を撫でて苦笑する。


(奴隷の印に感謝するなんてな……)


 ケビンの進む先に一体のゴブリンが倒れていた。

 腹に矢が刺さって喚いている。

 ツノオオカミに騎乗していた個体を誰かが射落としたのだろう。


「一匹殺せば銅貨一枚ッ!」


 叫んだケビンはゴブリンに圧し掛かり、手近にあった石で顔面を殴りつけた。

 鷲鼻が折れて血を噴き出す。

 歯も何本か砕けていた。

 ケビンは連続で石を振り下ろしてゴブリンを撲殺する。

 顔面の陥没した死体に馬乗りになっていると、ケビンは後頭部に強烈な衝撃が走った。


「がっ……!?」


 後ろから頭を殴られた。

 それを理解した時、ケビンは突っ伏すように倒れていた。

 泥の味に顔を顰めつつ、なんとか首を回して振り返る。


 ぶれる視界には棍棒を持ったゴブリンが映っていた。

 下卑た笑いを発しながらケビンを見下ろしている。


「くそがァッ!」


 ふらつきながら立ち上がったケビンは石を投げつけた。

 ゴブリンが棍棒で弾いた隙に突進し、腰に吊るしたナイフで腹を刺す。

 そこから耳を掴んで相手を引き倒した。


「死ね! 死ね! 早く死ねっ!」


 ケビンはゴブリンを滅多刺しにする。

 反撃で殴られて目に血と泥が入るも、構わず刺し続けた。

 喉を深く抉ったところでようやく手を止める。

 荒い呼吸のケビンは、視線を感じて前方を見た。


 五体のゴブリンが近付いてくるところだった。

 そのうち一体は上位種のホブゴブリンで、錆びた大剣を肩に担いでいる。

 部分的に鎧を装備しており、ナイフや石では対抗できそうになかった。


「ここまでか……」


 ケビンが呟いた次の瞬間、ゴブリン達の首が一瞬で刎ね飛ばされた。

 血飛沫を浴びて佇むのは銀髪の少女だった。

 両手には幅広の剣を一本ずつ握っている。


 銀髪の少女はケビンには一瞥もくれず、そこから別のゴブリンを斬り殺した。

 飛んできた矢を躱し、ツノオオカミの両足を切断し、突き出された槍ごとゴブリンを真っ二つにする。

 返り血を巻き上げて疾走する姿は、双方の陣営に絶対的な死を連想させた。


 ほどなくして甲高い笛の音が鳴り響いた。

 音を聞いたゴブリン達が撤退して森の中へと消えていく。

 残されたのは生き残った人間と、夥しい数の死体だけだった。

 銀髪の少女は最後まで傷を負わず、戦場の中央で静かに佇んでいた。


「また生き残った……」


 ケビンは手足を投げ出して倒れる。

 冷たい泥と雨の感触が、火照った肉体には心地よかった。

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[良い点] 〉「一匹殺せば銅貨一枚ッ!」 割に合わねえっ! まあ、奴隷らしいとも言えるか
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