第49話 覚悟の重み
リグル達が奈落の領域を眺めていると、野営地から三人の勇者が現れた。
元人間のケビン、令嬢服を着たルーンミティシア、弓を持つ無表情の男ラルクである。
堂々と歩いてきたケビンは、気さくな調子でマギリに話しかけた。
「よう、マギリ。評判は聞いてるぜ。頑張ってるみたいだな」
「様を付けろよ雑魚勇者」
「叩き折られてえのかクソ魔剣」
「ああッ!? だいたいてめえの太刀筋はぬるいんだよ! 実戦で鍛えているようだが、俺様からすればまだまだ素人だ。一流ってのは……」
激昂したマギリが早口で持論を展開する。
対するケビンは素知らぬ顔で聞き流している。
二人を知る者にとっては恒例に近いやり取りであった。
どちらも短気な上に気が合わず、会うたびに似たような言い争いをしているのだ。
ルーンミティシアは口喧嘩を無視してリグルに握手を求める。
彼女の態度には尊敬の念が込められていた。
「あなたが噂の剣士ですわね。はじめまして、勇者ルーンミティシアですわ」
「ほう、お主のように可憐なお嬢さんも勇者をやっておるんじゃな」
「まあ! 褒めるのがお上手ね」
盛り上がる二人のそばでは、ラルクとエナが会話していた。
ラルクは懐を探りながら流暢に質問を投げかけていく。
「久しぶりだな。長旅のようだが疲れていないか。いつもの蜜飴を食べるか」
「もう! 子供扱いしないでほしいッス! あたしは立派な大人ッスよ!」
「……すまない。では蜜飴も不要だな」
「欲しいッス!」
蜜飴を貰ったエナはそれを笑顔で頬張り、幸せそうに悶える。
彼女の反応を眺めるラルクは優しい目をしていた。
五号を自称する頃に比べると、別人のような変貌である。
半年間の休暇を経て、彼は確かな人間性を獲得した。
口喧嘩が落ち着いたところで、ケビンは自身の剣を奈落の領域に差し込んだ。
引き抜くと剣は朽ち果てていた。
至る所が錆びるか割れて使い物にならない状態となっている。
剣を捨てたケビンはリグル達に説明する。
「これが自動攻撃だ。同じことが人間にも発動する。再生力がある勇者は耐えられるが、生身の人間はとても入れる場所じゃない」
後半の言葉はリグルとエナに向けられていた。
エナは不安に駆られた表情だが、リグルは獰猛な微笑を湛えている。
今の説明でも彼の戦意は衰えていなかった。
その姿にケビンは「あーあ、戦闘狂か」とぼやいた。




