第48話 闇の結界
数週間後。
移動を続けたリグル、マギリ、エナの三人は黒い大地が広がる荒野にいた。
そこは魔族との戦争の最前線——常に殺し合いが行われる場所だった。
一帯には人間の兵士が野営地を設けている。
彼らは国内でも精鋭ばかりを揃えた部隊で、この地で魔族を食い止めるのが主な役割である。
いずれも実力者ばかりで、彼らを見るリグルの目は飢えた獣のように鋭かった。
戦いたがるリグルを、マギリとエナがなんとか抑えて歩かせた。
三人の前方には漆黒の壁が立ちはだかっている。
壁は緩やかに弧を描いており、地平線まで延々と続いて果てが見えない。
上空から俯瞰すれば、それが半円状の巨大結界であることが分かるだろう。
壁を前にエナが解説をする。
「魔王を守る結界ッス。通称は『奈落の領域』で、ここを突破しないと魔王のもとに辿り着けないッスよ」
「むう、面倒じゃのう」
「しょうがないッスよ。向こうも必死なんでしょうし」
エナはリグルをなだめつつ、さらに結界に関する情報を補足した。
「結界の内部は深い闇に覆われていて、あらゆる光源の効果が弱まるらしいッス。しかも様々な攻撃が自動で絶え間なく飛んでくるんだとか」
「視界不良でその攻撃……かなり厄介だな。無理やり突っ走って抜けられないのか」
「空間が歪んでるせいで無理らしいッスね。結界内に潜む術者を倒すしか方法がないッス」
「もう一つあるじゃろう」
会話中、リグルがいきなりマギリを振り下ろした。
衝撃波が闇の壁に炸裂するも、何の損傷も与えられなかった。
何度か同じように繰り返すも同じ結果である。
自身の斬撃が効かないことに、リグルは眉を寄せて唸った。
「ぬっ」
「外からの攻撃も無効ッスね……」
「先走りすぎだ爺」
マギリが呆れたようにぼやく。
リグルは残念そうに肩を落とした。
エナは結界をじっくり見ながら語る。
「結界の術者はまだ倒せていないッス。挑んだ勇者が何人か死んでいるらしいッスよ。生き残った人もなんとか撤退できただけで、まともに戦いにならなかったと聞いてるッス」
「おいおい、勇者が負けてるのか。情けねえな」
「それだけ相手が強いってことッスよ」
「敵が誰だろうと打ち勝つのが勇者の役目だ。敗北したら意味がねえな」
マギリの意見は辛辣だが的を射ていた。
エナは渋い顔だが、リグルは大いに共感して頷いている。




