第44話 腕試し
リグルが大股で歩き出した。
力強い足取りでそのまま森の中へ踏み込んでいく。
すぐにマギリが怒鳴って抗議した。
「おい爺さん! どこに行くつもりだ!」
「魔族の住処じゃよ。何日か前に見つけてのう。おぬしの具合を確かめるのに最適じゃろう」
「はあ!? ふざけんじゃねえよてめえ! 俺様があんたを試すんだ! 勘違いすんな!」
文句を言うマギリを気にせず、リグルはひたすら森の奥を目指す。
背後でやり取りを見守るエナは小声で呟いた。
「なんかすごい展開ッスね。帰っていいッスか?」
「絶対だめだ! この爺さんから俺様を奪い返せ!」
「えー、嫌ッス。どう見ても勝てないッスもん」
「クソがぁッ!」
そこから半日ほど移動し、三人は森の只中まで到達する。
彼らの前方には苔むした石造りの建物があった。
夕闇に紛れるようにしてひっそりとそびえ立っている。
建物には魔族がおり、略奪品と思しき酒と食糧を食らっていた。
草陰に隠れるリグルは建物を指差す。
「あそこが魔族の住処じゃ」
「廃砦っスか。放置された場所に住み着いたって感じッスかね」
「ったく、なんで俺様が……」
マギリは未だに文句を垂れている。
それを見たリグルは、挑発的な笑みと共に尋ねた。
「もしや怯えておるのか? ならばやめておくが」
「——今、なんて言った。俺様が怯えているだと」
マギリの声音に冷たい殺意が生じる。
刹那、剣全体から渦巻く魔力が放出された。
エナが仰天して腰を抜かす一方、リグルは興味深そうに目を細める。
「……ほう」
「クソ爺が。俺様を使うことを一度だけ許可してやる。実力を見せてみやがれ」
「お互いに腕試しということじゃな。うむうむ、よかろう」
二人の意見が固まった頃、魔力の放出に気付いた廃砦の魔族達が動き出した。
彼らは敵襲に騒ぎ、武器を持って押し寄せてくる。
その数は最低でも二百。
奥に控えている分を加えれば数倍にまで膨れ上がるだろう。
想像以上の戦力を前に、エナは大慌てで逃げ出す準備をする。
「や、やばいッス! 一気に来るッスよ!」
「下がっとれ、お嬢さん」
リグルが前に進み出る。
一見すると落ち着いた歩みだが、全身から立ち昇る殺気は濃密だった。
野獣の如き眼光は魔族達を捉えて離さない。
リグルがゆっくりとマギリを掲げた。
そして無造作に振り下ろす。
森が揺れた。
川が割れた。
風が断たれた。
魔族が肉片となった。
ただの素振りが強烈な衝撃波と化し、前方一帯に嵐のような破壊をもたらした。
接近しつつあった魔族が跡形もない。
扇状に薙ぎ倒された木々と半壊した砦の跡地が威力の規模を物語っている。
幸か不幸か生き延びた魔族の姿を見て、リグルは狂気の笑みを浮かべた。
「殺戮の始まりじゃ」




