第40話 風刃の最期
人間と魔族が殺し合う戦場。
その只中を高速で駆ける男がいた。
男は残像を残して疾走する。
その軌跡と重なった魔族は肉片となって崩れ落ちた。
助けられた兵士は歓声を上げるも、男がそれに応えることはない。
意識は常に標的である魔族に向けられていた。
彼は"風刃"のスロゥ。
風魔術を使う剣士だ。
地面すれすれを滑空する彼は、その剣技で次々と魔族を斬り伏せていた。
魔族からの反撃は回避するか、風の防御で上手くいなしている。
攻防一体となった動きに無駄はなく、戦場でも彼の活躍は飛び抜けていた。
そんなスロゥにどこからともなく警告の声がかかる。
「強敵だ。油断すんじゃねえぞ」
「分かっている!」
スロゥの周りは魔族ばかりで仲間はいない。
その状況で発せられた声に驚かず、彼はひたすら剣を振るって突き進む。
スロゥが向かう先には、人狼の上級魔族が待ち構えていた。
人狼は鉄板のように分厚く巨大な剣を地面に刺している。
辺りは人間の死体で血みどろになっており、むせ返るほど濃密な悪臭が満ちていた。
人狼はこの戦場における魔族側の大将だった。
スロゥは怯まずに接近して攻撃を仕掛ける。
間合いに入った瞬間、両者は連続で剣を打ち合う。
実力はほぼ互角だった。
けたたましい金属音が絶え間なく鳴り響く。
不用意に近付いた者は余波で負傷するほどの激戦だった。
吠えた人狼が大きく踏み込んで剣を一閃させる。
鋭い斬撃がスロゥの肩を掠めた。
肉が裂けて鮮血が噴き出す。
スロゥは険しい表情で呻いた。
「……ッ!」
「痛みなんて無視しろ! 追撃されてえのか!」
「無茶言うな!」
謎の声と怒鳴り合いつつ、スロゥは全力で戦い続ける。
肩の負傷は深刻だが、腕を動かせないほどではなかった。
魔力の消耗も気にせずに剣技と風魔術を織り交ぜて人狼に挑む。
その後、スロゥと人狼は相打ちとなって死んだ。
スロゥは顔面を切り飛ばされていた。
人狼は胸に風穴が開いていた。
死闘の末に互いに致命傷を与えたのであった。
両者の死は戦場全体に波及し、最終的には魔族側の撤退という形で終結する。
多大な犠牲を払いながらも勝利したことで、生き残った人間の兵士達は喝采を上げていた。
冷たくなっていくスロゥに対し、謎の声が落胆した様子で呟く。
「お前でもなかったか……残念だ」
その声は誰にも届かなかった。




