表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/116

第4話 犠牲の道

 紅茶を口にしたシエンは、涼しい微笑で話題を転換する。


「さて、リリア君。人造勇者には二つの欠点がある。何か分かるかね」


「分かりません。欠点があるのですか?」


「完全無欠など存在しない。まあ、それを追求するのが僕の仕事でもあるのだがね」


 シエンの目は異様な熱意を孕んでいた。

 それを見たリリアは背筋が凍るような感覚に陥る。

 彼女は深呼吸をして平常心を保とうと努めた。

 一方、シエンは何事もなかったかのように話を進める。


「人造勇者の量産には時間がかかる、今すぐに軍勢規模を用意するのは不可能だね。魔王討伐まで年単位の計画になる。これが一つ目の欠点だ」


「そこは我々も理解しています。防戦に徹すれば五年……今後の戦況次第では七年は耐えられるかと。もちろん早期に決着するのが望ましくはありますが」


「よろしい。ではもう一つの欠点について話そう」


 シエンが手を鳴らすと、ソキが部屋から出て行った。

 その後、彼女の消えた先から物音が聞こえてくる。


「起動したばかりの人造勇者は何もできない。記憶の吸収がなければ、学習能力は常人にも劣るのだよ。実例を見せよう」


 ソキが台車を押して戻ってきた。

 台車には白い服を着た少女が丸まって載っていた。

 少女は無気力な姿勢のまま動かず、ただ虚空を見つめている。

 シエンは足を組みながら声をかけた。


「なんでもいい。言葉を発したまえ」


「…………」


 少女は反応しない。

 本当に生きているかも分からない姿だった。

 困惑するリリアは答えを求める。


「あの、この子は……」


「もちろん人造勇者だ。ただし何も学習させていない」


 シエンが立ち上がって台車の横で屈む。

 彼はおもむろに手を伸ばすと、少女の銀髪をくしゃくしゃにした。

 それでも少女はされるがままだった。


「自我も感情もなく、言葉も通じない。そもそも呼吸をしていない……内部構造が人間と異なるから不要だがね。ようするに学習前の人造勇者は赤子よりも主体性がなく、端的に言って役立たずというわけだよ」


「そんな……これでは魔王討伐なんて不可能じゃないですかっ!」


「ああ、まず無理だね。そこらのゴブリンどころかドブネズミにも敵わない。だがしかし成長限界も存在しない。だから将来的には必ず勝てる」


 手を止めたシエンは断言しつつ椅子に座り直す。

 乱れた少女の銀髪は、ソキが撫でて整えた。

 一部始終を目撃したリリアは、少女を見つめて疑問を抱く。


(こんな小さな子供が魔王を倒せるの……?)


 人造勇者では魔王に敵わないかもしれない。

 そんな不安が押し寄せてくる。

 無力な少女が倒せるのなら、世界はとっくに平和になっているだろう。

 王国の使者を務めるリリアは各地の実情を知っており、尚更にそう考えざるを得なかった。


 シエンはふんぞり返った体勢でリリアに要求を告げる。


「人造勇者は他者を糧にするのが前提だ。王国にはとにかく学習素材となる死体を集めてほしい。欠損や腐敗といった状態も一切問わない。記憶の欠落はあるだろうが、まあ使えないことはないからね」


「わ、分かりました。他にお手伝いできることはありますか?」


「人間をどんどん最前線に送って死なせてくれ。犯罪奴隷とか傭兵とか冒険者が適任じゃないかな。出来上がった死体はこの工房まで運んでもらおう」


「えっ」


 リリアは言葉を失う。

 たった今、シエンが発した要求を理解できなかった……否、理解したくなかったのだ。

 シエンは不思議そうに首を傾げる。


「ん? どうしたのだね。何か問題でもあったかな」


「いえ……その、大丈夫です。いずれも国王に伝達します」


「過不足なく頼むよ。魔王を殺す重要な計画だ。ふふ、存分に楽しもうじゃないか」


「素敵です、ご主人様」


 静観していたソキがシエンを称賛する。

 シエンも得意げに胸を張るばかりだった。


 ここで倫理や道徳を説いても仕方ない。

 綺麗事で解決できる段階はとっくに過ぎ去っているのだから。


 己にそう言い聞かせたリリアは、挨拶もそこそこに賢者の工房を立ち去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ここで冒頭に戻る訳か
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ