第38話 弓の勇者の功績
魔術工房の客間。
賢者シエンは意外そうな表情で微笑を浮かべた。
「勤勉な君がまさか休暇の延長を求めるとはね。しかも半年だ。正直、驚いたよ。このまま帰ってこないのかと思った」
言葉の端々には皮肉が込められている。
シエンの対面には五号が座っていた。
院長の姿ではなく、本来の地味な外見に戻っている。
無表情の五号は頭を下げて謝る。
「迷惑をかけてすまない」
「問題ないさ。君の代わりにケビン君とルーンミティシアが頑張ってくれたよ。後で礼を言っておくといい」
その時、使用人ソキが資料の束を持ってきた。
資料を受け取ったシエンは気さくな口調で五号に告げる。
「この半年で君が成し遂げた功績の数々を振り返ろう。間違いがあれば訂正したまえ」
「……分かった」
五号の顔に陰りが差す。
あまり触れられたくないようだ。
シエンは資料の内容を声に出して読み始めた。
「まず真理の目の壊滅。擬態能力で情報収集し、各地のアジトに忍び込んで構成員を殺戮した。まあ、上級魔族すら射殺す君なら当然の結果だね」
「…………」
五号はますます顔を曇らせて黙り込む。
シエンはその変化を面白がりつつ質問をした。
「死体から記憶を読み取れば、もっと効率的に壊滅させられただろう。なぜ僕を頼らなかったのかな」
「記憶吸収をするには、死体をこの工房に持ってくる必要がある。往復の手間を省いて迅速に済ませたかった」
「つまり子供達の安全を一刻も早く確保したかったのだね?」
「その通りだ」
五号は即答する。
強い意志の宿る顔付きは、それ以上の指摘を許さない雰囲気がある。
彼は続けてシエンに問いかけた。
「魔族ではなく人間を殺したことを罰するつもりか」
「まさか。真理の目は過激派のカルト組織だ。壊滅させたところで悪影響はない。実験資料もすべて君が焼き払ったから残っていない。継承組織が出てくる可能性は低いだろう……僕としては資料は焼かないでほしかったがね」
「非道な実験は繰り返されるべきではない。それが世界のためになるとしてもだ」
「ふむ。聞こえの良い主張だね。説教されているのかと思ったよ」
苦笑するシエンが資料の束を机に置く。
探るような眼差しは五号の変化を読み解こうとしている。
ただし瞳の色は存外に暖かく、冷徹な魔術師というより親に近い感情が覗いていた。
五号はその理由が分からずに首を傾げた。




