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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第37話 感謝の言葉

 呆然とする子供達をよそに、五号は死体の制服を引き剥がして即席のロープにする。

 そこから死体をまとめて引きずることができるように結び付けていった。

 死体をシエンの魔術工房まで持ち帰り、記憶を抽出するつもりなのだ。

 彼らの持つ情報を五号は求めていた。


 淡々と作業する中、彼の背中に子供達が声をかける。


「い、院長先生……」


「院長ではない。あの男は二週間前に死んだ」


 五号は顔を向けずに告げる。

 作業に集中していたわけではない。

 真実を知った子供達の反応を見たくなかったのだ。

 そして、彼らを騙した自分には顔を見る資格がないとも考えていた。

 胸に痛みを覚えつつ、五号は早口で彼らに述べる。


「近くの安全な街まで連れて行く。そこから先は好きにしろ。教えた魔術があれば生活には困らないだろう。六人で力を合わせるといい」


「ねえ……待ってよ」


「路銀も渡す。無駄遣いはするな。冒険者なら手軽に稼げるが、危険な仕事が多い。特に前線に向かわされる依頼は――」


「あなたが院長じゃないこと知ってたよ!」


 五号が固まる。

 予想外の言葉に思わず振り向いた。

 子供達は泣き笑いのような表情で彼を見ていた。


「見た目はそっくりだけど、雰囲気がぜんぜん違うもん。すぐに分かったよ」


「喋り方も別人だった」


「演技が下手だし」


「うんうん」


 笑い合う子供達に五号は拍子抜けする。

 彼は擬態を見抜かれていないと考えていたので、まさかここまで周知の事実になっているとは思わなかったのだ。

 そのため五号は渋い顔で尋ねる。


「なぜ今まで指摘しなかった。正体を暴くと攻撃されると思ったのか」


「あなたが私達のために院長になろうと頑張ってたからだよ」


「怖そうなのに優しかった」


「料理もおいしかったね」


「魔術もたくさん使えるようになった!」


 子供達は次々と思い出を語る。

 たった二週間の出来事だが、彼らは競うように挙げ続ける。

 五号は口を挟めずに見ていることしかできなかった。

 脳裏には不器用ながらも院長として過ごした日々が溢れていた。

 ようやく思い出を語り切ったところで、子供達は揃って頭を下げる。


「僕達はあなたのおかげで生きています。助けてくれてありがとう」


 五号は立ち尽くす。

 何も言えずに震えていた後、彼は静かに「こちらこそ」と答えた。

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