第36話 彼は何者なのか
真理の目の男が自分の胸を見下ろす。
命中した矢は衣服を破っていたが、皮膚に接したところで止まっていた。
血は一滴も出ておらず、矢が地面に落ちる。
その時、別の構成員が「うがっ」と声を上げて倒れる。
倒れた構成員を中心にじわじわと血が広がっていた。
死体の背中には風穴が開いていた。
男は矢で破損した結界を睨み、それから五号に問いかける。
「……何の真似だ」
五号は無視して再び射撃する。
今度は男の額を捉えるも、やはり傷はなかった。
ほぼ同時にまた別の構成員が倒れて死ぬ。
構成員の頭部は破裂して原形を失っていた。
二度の攻撃を済ませた五号は素早く分析する。
(身代わりの魔術……死を押し付けているのか)
度重なる記憶吸収により、五号は豊富な魔術知識を誇る。
そのため相手がどのような術を使ったかも正確に予測できるようになっていた。
故に自分の攻撃が思うように通じなくとも動揺しない。
冷徹な狙撃手は完璧な観察眼で戦いを紐解き、最適解となる対策を講じて勝利を掴む。
その経験は魔族だけでなく、人間が相手だろうと例外ではなかった。
一方、部下を犠牲に死を免れた男は険しい表情で唸る。
「おい。まさか子供達に情が湧いたのではないだろうな。笑えんぞ貴様」
この呼びかけにも五号は答えず、弓矢で怒涛の連射を始めた。
容赦のない矢の雨が構成員を次々と射殺していく。
回避も防御も撤退も意味を為さない。
それは圧倒的かつ絶対的な暴力だった。
これにはさすがの男も大いに慌てる。
頭を抱えて身を低くしながら怒鳴りつけた。
「やめろッ! これは立派な反逆行為だぞ!」
「身代わりで防ぐなら先に全滅させればいい。簡単な話だ」
淡々と呟く五号は矢を放つ手を止めない。
何重にも重ねられた防御魔術をものともせず、必殺の威力を浴びせていった。
それまで喚くだけだった男は何かに気付く。
「待てよ、魂の形が違う……貴様、誰だァッ!」
「勇者だ」
五号は堂々と答える。
彼の放った矢は、男の首を貫いて樹木に縫い止めた。
いつの間にか他の構成員が死んでおり、身代わりの魔術が発動しなかったのだ。
男は何か言いたげに口を開いたが、言葉にする前に息絶えた。
弓を下ろした五号は振り返る。
六人の子供は困惑した様子で彼を見つめていた。




