第31話 逸脱の決意
五号は己の身体を端から調べる。
性能は変わっておらず、ただ外見が死体の男になっただけのようだった。
記憶も一切増えていない。
人造勇者にこのような機能はなく、五号はこれが固有能力であると結論付けた。
(外見の情報だけを取り込んだのか)
ルーンミティシアは死体に触れることで発動する能力だった。
あちらは記憶を吸収するため、外見だけを模倣する五号は正反対の性質と言える。
(人造勇者は記憶の吸収に伴って外見が変動し、自我の定着に合わせて固定される。発現した固有能力はこの機能が発展したものだろう)
無言で推察する五号だったが、予想外の状況が重なったことで少なからず困惑していた。
思わぬ場面であっさりと発現した固有能力。
素性の知れぬ男の死体。
魔力を暴走させる六人の子供。
瓦礫から救い出した死体を子供達に渡すのが当初の予定だった。
しかし、死体は五号自身が取り込んでしまった。
都合よく取り出せそうにもなく、元の姿に戻ることもできない。
そうして何もできずに立っていると、子供達の一人が五号を見つけて指差した。
「みんな! 院長先生が生きてたよ!」
「いや、院長は――」
咄嗟に訂正しようとする五号だったが、その前に他の子供も集まってきた。
彼らは五号を囲んでそれぞれ反応を示す。
「よかったー!」
「喧嘩してごめんなさーい!」
「怪我はない!?」
「なんで違う服なの?」
「ここは危ないから逃げよう!」
前後左右から抱き着かれた五号は身動きが取れなくなる。
ここですぐに振り払えるほど彼は非情ではない。
数万の魔族を無傷で屠る人造勇者は、何もできずに立ち尽くすことしかできなかった。
間もなく雨が降り始めた。
広がりつつあった火災が鎮まっていく。
建物の火も消えて早急に退避する必要がなくなった。
六人の子供は一向に離れない。
雨と涙に濡れる顔を五号の衣服に擦り付けている。
されるがままの五号は子供達を見下ろす。
「…………」
院長の生存を喜ぶ彼らにかける言葉がなかった。
残酷な事実を伝えられない。
口を開いても、小さな呻きを洩らすことしかできなかった。
困り果てた五号の脳裏にシエンやルーンミティシア、ケビンの顔が思い浮かぶ。
三人から教わったことを反芻し、ある一つの決意を固める。
深呼吸をした五号は、子供達に向けてひどくぎこちない笑みを見せた。




