第27話 進化の秘訣
魔術工房を出発した五号が向かったのは、魔族の掃討戦が行われる地域だった。
そこに築かれた野営場にて、彼は責任者に用件を告げる。
「休暇を貰ったがどう過ごせばいいのか分からない。手順を教えてほしい」
五号の前で困惑しているのは、人造勇者ルーンミティシアだった。
彼女は反応に迷いながら確認する。
「なぜわたくしに尋ねますの?」
「出立から最近まで、任務を放棄して遊び呆けていたと聞いた。その経験を参考にしたい」
「遊び呆けて…………一応、街の守護はしていたのですけどね」
ルーンミティシアは小声で訂正する。
五号は気にせず話を進めた。
「休暇とは何をすればいい」
「普段しないこと……たとえば娯楽に触れてみるなんてどうでしょう」
「大抵の娯楽は知っている。死者の記憶にあった」
「記憶を持っているだけなのと、実際に体験するのとでは大違いですわ」
「そうなのか」
「そうですわ」
言い切られた五号は、僅かに眉を寄せて思案する。
彼なりに娯楽の意義を考えているようだった。
その姿を微笑ましそうに見るルーンミティシアは、これまでより優しい口調で補足する。
「娯楽も馬鹿にできません。注意深く取り込めば、戦いに使える発見があるかもしれませんわね」
「分かった。検討する」
「わたくしが行ったことのある地域なら、おすすめの過ごし方を紹介できますわよ。どうかしら?」
「知りたい。頼む」
さっそくルーンミティシアは自身の経験談を伝える。
五号はそれらを一語一句逃さず正確に憶えた。
脳裏に描いた地図で位置関係を参照し、最短距離で巡れる行程を組んでいく。
説明を終えたルーンミティシアは、優雅な仕草で髪を揺らす。
「他に訊きたいことはありますの?」
「固有能力をどうやって発現したのか教えてほしい」
ルーンミティシアの顔が一瞬だけ曇る。
彼女の瞳には、過去の失敗と挫折がありありと映り込んでいた。
それを抑えた後、ルーンミティシアは静かに答える。
「――皆の死を無駄にしたくない。すべて背負うと決意したことで使えるようになりました」
「その決意とは願望か」
「ええ、そう捉えることもできますわ。あなたの願望は何ですの?」
「分からないから探している」
「見つかると良いですわね」
用件を済ませた五号は出発の支度をする。
最低限の荷物を持って彼は歩き出した。
「紹介された土地を巡ってみる。世話になった」
「あっ、その前に会ってほしい人がいますの。こういう相談にぴったりのはずですわ」
「誰だ」
ルーンミティシアの助言を聞いた後、五号は足早に野営場を去った。




