表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/116

第26話 成長の停滞

 男は魔術工房の客間に座っていた。

 対面には書類を持った賢者シエンがいる。

 シエンは事務的な口調で質問を投げかけた。


「君の要望通り、狙撃能力に影響しそうな死体を抜粋した。上手く定着したはずだが、何か異常はあるかね」


「問題ない」


 答えてから男は目を閉じる。

 暫し考え込んだ後、彼は静かに述べた。


「数学者と気象学者の記憶が特に役立ちそうだ。これならさらに精密な狙撃ができる」


「戦闘技能ばかりでは不満かと思ったのでね。様々な専門知識を融合できるのも人造勇者の強みだ」


 シエンは書類に何かを書き込んで頷く。

 作業を済ませたシエンは、男の顔を見て切り出した。


「人造勇者五号。君は模範的な男だ。効率重視で過不足がない。堅実な働きぶりは兵士からも評価されている。僕としては味方側の死体も提供してほしいところだが、まあそれは贅沢だろう」


「そうか」


 弓使いの男・五号は素っ気ない返事をする。

 シエンの感想に興味がないらしく、聞いているのか分からない反応だった。

 それについてシエンも注意をしない。

 慣れ親しんだやり取りであり、今更気にすることでもなかったからだ。


 男に名前はない。

 五番目の人造勇者だから五号と呼ばれている。

 本人が名前など必要ないと断じており、シエンも放置している状態だった。


 五号は身動き一つ取らずに座っている。

 その様子をシエンは意味深に観察していた。


「…………」


 客間に沈黙が訪れる。

 それを破ったのは五号だった。

 彼は立ち上がって弓を担ぐ。


「次の戦場を教えてくれ」


「いや、君には別の任務に就いてもらう」


 五号がじっとシエンを見下ろす。

 彼は怪訝そうに尋ねる。


「どんな任務だ」


「七十日間の旅。場所と目的は自由。金も出す。つまり休暇だね」


「休息は必要ない。肉体の機能は万全だ」


「それでは困る。僕は君に万全以上を望んでいるのだよ、五号」


 シエンが立ち上がって告げる。

 五号は表情を変えずに問いかけた。


「何を言っている」


「君の停滞を打破する実験さ。彼女の覚醒から思い付いた」


 彼女が誰を指すのか、シエンは説明しようとしなかった。

 五号もそこには言及しない。

 シエンは書類の中身を見せながら語る。


「まず前提として、自分の性能が頭打ちに迫っていることには気付いているかね」


「自覚している。記憶吸収時の成長率が鈍くなってきた」


「それに加えて、初期の人造勇者の中で君だけが固有能力を持たない。狙撃能力は基礎技術の延長に過ぎず、記憶吸収で上達しただけだ」


 書類には五号の性能の推移が記載されていた。

 各戦場での活躍についても記されている。

 シエンの指す停滞とは、これらの資料に基づく話であった。


「君の自我は曖昧で、今のところ命令に従うだけの人形に等しい。没個性は人造勇者の理念に照らし合わせると失敗だが、それを理解しているかな」


「出来が不満なら破壊しろ。その意向に逆らうつもりはない」


「そういう思考が駄目なのだよ。もっと君自身の感情を出したまえ」


 シエンが五号の胸板を叩く。

 五号は表情を変えず、淡々としな眼差しで生みの親を見るだけだった。


「停滞打破の鍵……固有能力の発現には願望が関わっている。その願望を抱くために自我が必要なのだよ。休暇の中で探したまえ。これは命令だ」


 話が終わった途端、金貨入りの袋を渡された五号は工房から追い出される。

 さっさと休暇に行けということらしい。

 命令である以上、五号は逆らうことができない。

 彼は行くあてもなく歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ