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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第25話 弓の男

 平原を舞台に人間と魔族が戦っている。

 人間側は何重にも結界を張り、そこに魔族が殺到する構図だ。

 一見すると優劣がはっきりとしているが、実情は少し異なっていた。


 人間側の結界は過剰気味で、とにかく損害を出さないことを重視している。

 攻め時を逃したわけではなく、あえて守りに徹している動きだった。

 それを知ってか知らずか、魔族は果敢に結界の破壊を試みる。

 数の暴力で攻撃を畳み掛けて突破しようと躍起になっていた。


 そのような戦場から遠く離れた場所に森林地帯。

 地平線の彼方に広がるそこで、葉々に溶け込むように潜む男がいた。

 微動だにせず弓矢を構えている。


 男は極めて特徴のない容姿だった。

 顔立ちは平凡で、良くも悪くも印象に残りづらい。

 布の服はどこでも買えるような安物だ。

 似た人間を探せば、世界中でたくさん見つかることだろう。

 それほどまでに男は無個性であった。


 ただし、弓矢を構える佇まいは洗練されていた。

 研ぎ澄まされた殺意を引き絞り、一点に集中させている。

 彼の目は遥か遠くの魔族を凝視していた。


 男は構えた弓から矢を放つ。

 魔力を帯びた矢は加速し、一瞬で戦場に到達した。

 そして軌道上の魔族を連続で貫いていく。

 上級魔族の胸に突き立ったところで、矢はようやく止まった。


「オッ……」


 羊頭の上級魔族は何が起こったのか理解できずに崩れ落ちる。

 そのまま二度と立ち上がることはなかった。


 突然の攻撃に魔族は大いに混乱する。

 彼らは事態の把握に努めるも、すぐさま二射、三射が飛んできて統制が取れなくなった。

 超遠距離から放たれる矢を前に為す術もなく殺されていく。

 それは理不尽な虐殺そのものだった。


 壊滅的な被害を受けた魔族達は次第に逃亡を始めた。

 その背中を矢が容赦なく穿つ。

 空を飛んで去ろうとする個体も羽を撃ち抜かれて墜落した。

 地面に潜っても矢は命中し、魔術で防ごうとしても容易に貫かれる。


 男は妥協しない。

 機械的な正確さで射撃を繰り返し、一定の間隔でひたすら矢を放つ。

 結局、魔族は一匹残らず死んだ。


 残された人間は粛々と死体の回収に移る。

 彼らはこの結果を予想しており、誰も動揺していない。

 慣れた様子で死体を馬車に詰め込むだけだった。


 森に潜む男は弓を下ろしてその場から立ち去る。

 彼は最後まで無表情だった。

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