第23話 人造勇者の真髄
追体験から抜け出した時、ルーンミティシアの前にはユナの死体があった。
もう喋ることはない。
魂の宿らないただの死体だった。
「ユナ、あなたは……」
ルーンミティシアが呟いた瞬間、彼女のそばに大鎌の悪魔が降り立った。
悪魔は意外そうな様子で鼻を鳴らす。
「首を切っても蘇るとは……しぶといな。勇者が人間を超越しているという噂は本当だったか」
ルーンミティシアは反応しない。
彼女はユナの死体だけを見つめていた。
その行動に苛立ったのか、悪魔の殺気が膨れ上がる。
大鎌の刃に魔力が浸透して揺らめく光を発した。
「今度は再生できなくなるまで切り刻んでやろう」
「やめて」
ルーンミティシアが悪魔を一瞥して手をかざす。
彼女を囲う形で箱型の結界が出現した。
すぐさま悪魔が大鎌を叩きつけるがびくともしない。
連続で放たれる斬撃でも損傷しなかった。
一方、ルーンミティシアの負傷が瞬く間に癒えていく。
戦闘で負ったダメージが消えて、首の切断痕も薄れて無くなった。
全快したルーンミティシアは、結界に猛攻を浴びせる悪魔を冷静に観察する。
侍女ユナは回復魔術と結界魔術の使い手だった。
ただしその才能はお世辞にも優れているとは言い難く、魔力量は一般人並みで習得できたのは初歩的な術に限られた。
他の系統については一切扱えず、総合的な力量は決して高くない。
ところがユナは地道に鍛錬を重ねて、己の長所と短所に向き合った。
術式の工夫で魔力消費を限界まで抑え、詠唱破棄や術の同時行使で対応力を底上げした。
さらに多種多様な知識を学んで自身の力に活かす。
こうしたユナの努力は単なる自己研鑽ではない。
いつか自分が死んでも、記憶を取り込んだルーンミティシアの助けとなれるようにという気遣いだった。
その目論見は見事に成功していた。
ユナの魔術を引き継いだルーンミティシアは、短期間で急激に実力を伸ばした。
人造勇者として優れた身体機能に魔術の技量が結び付き、上級魔族すら凌駕する力に到達したのである。
「これで終わりですわ」
ルーンミティシアが手を動かすと、それに従って結界が変形する。
結界は悪魔を包み込んで閉じ込めた。
悪魔が必死に脱出を試みるが、やはり破られる気配はない。
やがて結界は蓄積したダメージを内部――つまり悪魔へと解放した。
轟音と共に爆発が発生し、悪魔は一瞬で蒸発した。
ルーンミティシアは残った結界をさらに変形させて、戦斧の形で固定する。
それを握った彼女は、残る魔族の殲滅に動き出した。




