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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第22話 最期のメッセージ

「ユナ、あなた……」


 ルーンミティシアは愕然とする。

 まさかユナが記憶の吸収を予想して話しかけてくるとは思わなかったのだ。

 結界を維持しつつ、ユナは苦笑交じりに話す。


「なんだか喧嘩別れのようになってしまいましたが、私は別に怒っていません。どうか気落ちしないでください。あなたが拗ねるのは今に始まったことではないですし、慣れていますよ」


「ふふ、言いたい放題ですわね……」


 ルーンミティシアはユナとの思い出を振り返る。

 事あるごとに二人は喧嘩ばかりしていたが、不思議と気は合った。

 言い争っては仲直りの繰り返しだった。


「状況的に私は生き残れないでしょう。ですが、教会に匿った人々は守り通すつもりです。あなたが到着する段階でも結界は保たれているはずなので、くれぐれも壊さないでくださいね」


「そんなことしませんわ。あなたの大切な術ですもの」


 ユナの結界が爆発し、至近距離にいた魔族を吹き飛ばした。

 蓄積したダメージをまとめて解き放ったのである。

 攻防を織り交ぜながらも、ユナは集中を切らさずに語り続けた。


「私の推測が正しければ、あなたは魔族に敗北しましたね。記憶吸収を怠ったあなたでは敵わず、さぞ絶望していることでしょう」


「相変わらず読みが鋭いですわね……」


「ですがあなたは逞しい精神を持っています。きっと再び立ち上がり、勇者としてここまでやってきます。そう信じていているからこそ、遺言を用意しているのですよ」


 その時、結界が粉砕された。

 ユナはすぐに新たな結界を張り直し、魔族の攻撃を防いでみせる。

 結界の爆発が新たに数体を引き裂いて倒した。


 唐突に咳き込む音が入る。

 それはユナ自身のものであった。

 彼女は少し苦しそうな声音で呟く。


「……長々と話す余裕もありません。手短に伝えましょう」


 ユナは一呼吸を置く。

 そして、はっきりと告げた。


「あなたは立派な勇者です。まだまだ成長過程にあり、その潜在能力は魔王にすら届き得るものです」


「……ッ」


 ルーンミティシアは息を呑む。

 このような言葉をユナから聞いたのは初めてだった。

 小言と説教ばかりで、勇者としての評価は厳しい印象だったのである。


「此度の敗北であなたは多くを学んだ。自責、後悔、憤り、悲しみ……記憶を吸収せずとも思い知りましたね。それらを糧にしてください」


 ルーンミティシアは頷く。

 目頭が熱くなり、涙がこぼれ出た。


「挫けず諦めないで前に進んでください。その先に希望があります」


 ルーンミティシアは何度も頷く。

 嗚咽を止められず、言葉を発することができなかった。


「罪の意識を感じるのなら、それ以上の命を救ってください。償いは未来にあります。これから挽回しましょう」


「わか……り、ました……」


 ルーンミティシアは泣きながら答える。

 彼女が決意した直後、ユナは優しい声で述べる。


「私は死にましたが、あなたの一部となって生き続けます。そのことを忘れないように」


「ユナ……」


 爆発の連鎖により、結界に群がっていた魔族が全滅していた。

 ユナが最後の力を振り絞って攻撃し続けたのだ。

 展開されていた結界が解除されて死骸だけが残る。


「そうそう、ケビン様には後で謝ってくださいね。彼ならこの戦場を生き残るはずです。同じ勇者として手を取り合うべきですから」


 刹那、ユナの視界が急回転して空だけを映す。

 彼女が力尽きて倒れたせいだった。

 目からの出血で空がじわじわと赤く染まっていく。


「では、お元気で」


 そうしてユナの記憶は終了した。

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