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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第21話 守ったもの

 強烈な喪失感が胸を切り刻む。

 叫ぶルーンミティシアは石畳に頭を打ち付けた。

 何度も何度も執拗にぶつけて血を流す。

 額が裂けて出血するも、彼女は気にせず自傷し続けた。


 憎悪が際限なく膨れ上がっていく。

 その矛先は街を蹂躙する魔族ではない。

 他ならぬルーンミティシア自身に向けられていた。


 彼女は己の弱さを呪った。

 記憶吸収で地道に強くなっていれば、上級魔族にも後れを取らなかった。


 彼女は己の怠惰を呪った。

 勇者として情報収集を徹底していれば、被害を抑えられたかもしれない。


 彼女は己の短気を呪った。

 ケビンとの問答から逃げ出さなければ、そばでユナを守れたというのに。


 後悔と怒りが無限に湧き上がる。

 しかし、いつまでも嘆いている場合ではない。

 顔を血だらけにしたルーンミティシアは、深呼吸で平常心を取り戻そうとする。

 住民の記憶を背負う今、私情で立ち止まるわけにはいかなかった。


 ルーンミティシアは改めてユナの死体を観察する。

 死体は目や鼻や口から血を流していた。

 目だった外傷はなく、魔術の過剰行使で死に至ったことが分かる。


(無茶をして魔術を使うような理由が……?)


 疑問に思うルーンミティシアだったが、ふと半壊した教会を見やる。

 一見すると無人の廃墟だが、感覚を研ぎ澄ますと人の気配を感じられた。

 かなりの人数が隠れているようだ。

 ただし、視覚的には誰も見つけられない。


 ルーンミティシアは教会を注視し、全体が薄い膜のような結界で覆われていることに気付く。

 その効力が景色を誤魔化して教会内の住民を隠していた。

 たとえ魔族が近寄っても彼らの存在に気付くことは困難だろう。


(結界による認識阻害……死後も持続する術なんてあなたらしい)


 ユナは己を犠牲に人々を守り抜いたのだ。

 限界を超えた魔術行使が死に繋がると知りながらも完璧にやり遂げた。


 高潔な最期を知ったルーンミティシアは結界から離れる。

 街の中では戦いが続いている。

 下手に動くより隠れている方が安全だった。


 ルーンミティシアはユナの死体に触れる。

 ユナの視点の記憶は、魔族の猛攻を結界で阻む場面から始まった。

 必死に術を張り続けるユナは、息切れした声で喋る。


「ルーンミティシア様、お元気ですか? あなたが私の死体を見つけて、記憶を吸収したことを前提に話しています」

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[一言] 遺言は悲しくも美しい
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