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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第20話 最期を拾い集める

 野菜屋の主人が血まみれになって死んでいた。

 全身を殴られた痕跡がある。

 ルーンミティシアは呼吸の乱れを自覚しながら死体に触れた。


「お嬢が死んだなんて信じるか! 魔族なんてオレがぶっ飛ばしてやる!」


 野菜屋は槍を持って魔族と戦っていた。

 若い頃は傭兵だった彼は、巧みな攻撃で次々と敵を屠る。

 しかし加齢による体力不足には勝てず、隙を突かれて袋叩きにされてしまった。

 野菜屋は最期まで弱音を吐かず、血みどろの姿で一体でも多くの魔族を道連れにしていた。


 酒場では冒険者の集団が死んでいた。

 魔族の死体も転がって死屍累々の惨状となっている。

 ルーンミティシアは順に記憶の吸収を進める。

 自動的に合成された記憶は、酒場での戦闘を再現映像に仕立て上げた。


「ルーン様ばかりに任せてられねえぞ! 冒険者の底力を見せてやろうぜ!」


 冒険者達は陣形を組んで魔族を蹴散らす。

 手慣れた動きで当初は優勢だったが、そこに中級魔族が加わったことで形勢が逆転した。

 戦力差を覆された冒険者達は、あっという間に全滅してしまう。


 惨たらしい光景の数々にルーンミティシアは涙を流すも、決して目を背けることはなかった。

 彼らの犠牲を知り、受け入れねばならないと思ったからだ。

 ルーンミティシアだけがその義務を果たすことができる。


 路地裏では粗末な服の少女が死んでいた。

 同じような背格好の少年少女も殺されていた。

 ルーンミティシアは道端で貰った花の冠を思い出した。


「ゆうしゃさま! おねがいです、まぞくをたおしてください!」


 少年少女の死体は干からびていた。

 異常に乾燥しているのは血を抜き取られているせいだった。

 記憶を参照したところ、彼らを襲ったのは一体の吸血鬼であった。

 若い人間の血が好物らしく、非力な少年少女から旨そうに血を奪って殺していた。


 ルーンミティシアは地面を殴って泣きじゃくる。

 己の不甲斐なさを心底から呪った。

 それでも足りず自害したくなったが、彼女は必死に我慢して歩き出した。

 もはや彼女だけの命ではない。

 楽に死んでもいい立場ではなかった。


 ふらつくルーンミティシアが辿り着いたのは半壊した教会だった。

 教会の前に誰かが倒れている。

 鼓動の速まりを感じながら、ルーンミティシアは身長に歩み寄る。


 それは、侍女ユナの死体だった。

 ルーンミティシアは慟哭した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごい…淡々とした地の文がルーンミティシアの悲しさや悔しさ、怒りをより引き立ててる… [一言] ああ、なんて非人道的で人道的で、非人間的で人間的な兵器なんだろう。
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