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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第19話 死を幻視する

「感謝します、ライナ」


 死体に告げたルーンミティシアがゆっくりと進む。

 彼女は前を見据えているが、完全に吹っ切れたわけではない。

 それでも絶望に沈んだ精神は持ち返しつつあり、戦いに挑むだけの気力は生まれていた。


 実際のところ、冒険者ライナの記憶は大したものではなかった。

 ライナは特筆する点のないただの冒険者である。

 剣術は人並みで凡人の域を出ない。

 しかし彼女の真摯な想いは、未熟なルーンミティシアの心を後押しするのに十分な力があった。

 託された心は人造勇者の支えとなって生きている。


 ルーンミティシアを見つけた魔族が襲いかかってくるが、次々と斬られて返り討ちに遭う。

 油断と慢心を捨て去った堅実な太刀筋は、ルーンミティシアの身体能力も相まって必殺の一撃と化していた。

 下級魔族ではもはや障害にならず、ただ斬り伏せられるだけとなっている。


 決意を秘めたルーンミティシアの表情は変わらない。

 いつものように勝利に酔うことはなく、ひたすら地道に歩き続ける。

 剣を振るうたびに、彼女の攻撃は鋭さを増していく。


 ほどなくしてルーンミティシアは潰れた屋台を発見した。

 散乱した宝石と共に、店主が下敷きになって死んでいる。

 喪失感に顔を歪めながらも、ルーンミティシアは死体に触れた。


 取り込んだ記憶が店主の最期をルーンミティシアに追体験させる。

 死を迎える直前の店主は、木の棒を振り回して魔族を牽制していた。


「この店はルーンミティシア様のお気に入りだ! 近付くんじゃねえッ!」


 間もなく店主は魔族の爪で引き裂かれる。

 破壊された屋台に潰されたところで彼の視界は暗転した。

 幻視を終えたルーンミティシアは、泣きながら屋台の前から立ち去る。


 次に立ち寄ったのは焼け落ちた書店だった。

 黒焦げになってうずくまる死体が倒れている。

 手には炭化した書物を抱えていた。

 ルーンミティシアは死体に触れてその最期を追体験する。


 炎に巻かれた書店の前で、青年は魔導書を使って戦っていた。


「どうだ! これが勇者様の認めた魔導書だぞ! お前達なんて怖くないからな!」


 青年は術の展開で魔族の攻撃を凌いでいたが、やがて物量差に押されて魔力切れを起こした。

 気絶した青年は、魔族達によって炎の中に投げ込まれて死んだ。

 極限の苦痛に苛まれながらも、彼が魔導書を手放すことはなかった。

 青年の最期を知ったルーンミティシアは、乱暴に涙を拭って再び歩き出した。

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