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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第18話 引き継がれる魂

「どう、して……」


 死体を前にルーンミティシアは呆然とする。

 全身が震える。

 叫び出したくなるのを彼女は寸前で堪えていた。

 か細い声で洩らしたのは、小さな弱音だった。


「もう嫌だ」


 名前も知らない冒険者の死が、ルーンミティアに言いようのない無力感を知らしめる。

 栄光と称賛ばかりを享受してきた彼女は新鮮な苦痛に喘ぐ。

 ともすれば己の敗北よりも辛く、悲しかった。


 ルーンミティシアが死体に触れようと手を伸ばして、止める。

 ここで記憶を吸収したところで魔族には勝てない。

 その予感が彼女の行動を躊躇わせた。


 しかし、ここで諦めていいのか。

 何もせずに放棄するのか。

 脳裏で自問自答が延々と繰り返される。


「…………」


 ルーンミティシアは死体の前で葛藤する。

 自分がどうすべきか決めあぐねていた。


 絶望と苦痛と恐怖に屈して、すべてを投げ出したい。

 冒険者の想いを継いで仇を取りたい。


 相反する気持ちはどちらも本物だった。

 故に狭間で揺れ動いている。


 もっと臆病なら楽になれたのに。

 もっと勇敢なら立ち向かえたのに。

 己の半端さをルーンミティシアは心の底から軽蔑し、呪っていた。


 彼女は尚も死体の前で悩む。

 涙を流して迷い、苦悶し、呻き、嘆いて笑う。

 それは僅かな時間だったが、体感では永遠にも等しい熟考であった。

 やがて顔を挙げたルーンミティシアは死体に告げる。


「――ごめんなさい。ありがとう」


 ルーンミティシアの手が、そっと死体に触れる。

 その瞬間、彼女の中に記憶が流れ込んだ。


 冒険者ライナは死の間際に苦痛や恐怖を感じていなかった。

 ライナはルーンミティシアの奮起に期待して死んだ。

 勇者の力で街が救われると本気で信じ、安堵して逝ったのである。


 ライナという冒険者は、自分よりも他者を気遣う優しい心の持ち主だった。

 その感情を記憶という形でルーンミティシアは理解した。

 彼女の頬を一筋の涙が伝い落ちる。


 一方、周囲にいた魔族が、無防備なルーンミティシアは気付く。

 魔族達は一斉に襲いかかった。


 攻撃を仕掛ける寸前、魔族達は肉片となって四散する。

 血飛沫が舞う中、ルーンミティシアが静かに佇む。

 掲げられた彼女の手には、ライナの剣が握られていた。

 涙に濡れた顔でルーンミティシアは歩き始める。

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