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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第17話 儚き願い

 大鎌を担いだ悪魔が時計台から飛び去る。

 その様子を首だけとなったルーンミティシアが見ていた。

 土まみれの彼女は、瞬きだけを繰り返している。


 首と胴体を切り離されても生きていられるのは人造勇者の特徴だった。

 人間とは構造が根本的に異なり、体内の核を破壊されなければ死なない。

 たとえ首を斬られようと修復可能であった。


 大鎌の悪魔は過去に何度か人造勇者と戦った。

 ただし核の存在までは知らず、勝利しても今回のように仕留め損なってきた。

 もしそこに気付いていれば、ルーンミティシアの命はそこで潰えていただろう。


 そして今、ルーンミティシアは深く絶望していた。

 意識は明瞭で物理的に復活できる状態だが心が折れていた。 


(負けた……あんな化け物に敵うはずがない)


 格下との戦争ばかり選んできた彼女にとって敗北は初めての経験だった。

 加えて互いの実力差は埋めがたいものである。

 一方的に嬲られて斬首された事実は、屈辱や恐怖を通り越して諦めを植え付けた。

 故にルーンミティシアは打ちひしがれている。


 無力な彼女を嘲笑うかのように、周囲では虐殺が繰り広げられていた。

 ツノオオカミの群れが生きた人間を食い千切る。

 ゴブリンが若い娘を犯す。

 リザードマンが牧師を串刺しにする。

 スケルトンの放つ魔術が人間を腐らせる。

 巨人族が嬉しそうに飛び跳ねて血肉の絨毯を作る。


 歓声と断末魔が頭の中を反響する。

 ルーンミティシアは気が狂いそうだった。

 頭部だけ彼女は何もできず、その最悪の光景を見守るしかなかった。

 自害できるならとっくに実行していたに違いない。


 その時、ルーンミティシアに近寄る者がいた。

 とどめを刺しに来た魔族ではない。

 傷だらけの姿で歩くのは冒険者の女だった。


 冒険者は血だらけで手足や顔面に重篤な火傷を負っている。

 胸には鉄片が刺さっていた。

 膝から崩れ落ちた冒険者は泣きながら懇願する。


「お願いです、勇者様……みんなを助けてくださいっ!」


 冒険者はルーンミティシアの胴体を引きずって頭部に近づける。

 傷が開くのか、苦痛に顔を歪めながら動かしていた。


「噂通り、ですね。勇者様は、不死に近いと聞きました。だから、首だけでも生きていると……思いました」


 喋る冒険者は生首と胴体を揃えて繋げる。

 断面を通して魔力が巡り、切られた箇所が癒着した。

 四肢の感覚が戻り、ルーンミティシアは恐る恐る上体を起こす。

 それを見た冒険者は力なく笑った。


「死体で強くなるんですよね……だったら、私を……使って、くだ、さい。少しでも、役に立つなら、本望で……」


 冒険者が突っ伏すようにして倒れる。

 彼女はそのまま死んでいた。

 じわじわと広がる血が地面と濡らしていく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり重い [一言] さてルーンミティシアはどうするのか…冒険者の方には悪いけどそんなすぐに強くなれるとは思えないし
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