第12話 街の守護者
ルーンミティシアは鏡の前でポーズを取る。
華やかなワンピースに身を包み、銀色の髪を揺らして動く様は、見る者を魅了する美しさを備えていた。
彼女はそれを自覚しており、だからこそさらに洗練を試みている。
己の美しさを磨くことは、ルーンミティアにとって何よりも重要だった。
そばに控える店員が彼女に尋ねる。
「どちらをお買い求めになられますか?」
「全部ですわ」
「え?」
「全部買うと言いましたの。早く準備してくださるかしら」
ルーンミティシアが背後を指し示す。
そこには大量の衣服が山積みとなっていた。
応対していた店員は慌てて応援を呼ぶと、数人がかりで衣服を畳み始めた。
整えられた衣服は店外に停まる馬車へ次々と運び込まれていく。
それが終わった後、店員は恐る恐るルーンミティシアに切り出した。
「こちら百十二点で合計は……」
「どうぞ」
ルーンミティシアが大きな革袋を差し出す。
その拍子に何枚もの金貨がこぼれ落ちた。
革袋には相当な額の金貨が詰め込まれており、少なく見積もっても五十枚は優に超えている。
それに気付いた店員は焦った様子で首を振った。
「こ、こんなに貰えません! いくらなんでも多すぎますっ!」
「わたくしが妥当と判断しましたの。店の決めた価格なんて関係ありませんわ。黙って受け取りなさい」
ルーンミティシアは強引に革袋を押し付けて店外へと向かう。
扉を抜ける際、彼女は振り返って挨拶をした。
「また来ますわね。それではごきげんよう」
ルーンミティシアは馬車に乗って移動する。
彼女の隣では、侍女のユナが浮かない顔をしていた。
ユナは大げさなため息を洩らす。
「あーあ……また散財しましたね。領主様に怒られますよ」
「管轄の街で消費しているのだから何も問題ありません。経済を循環させているだけですわ。ユナは心配性ね」
「当たり前の懸念だと思うのですが……」
ぼやくユナは後部の荷台スペースを見やる。
そこには衣服の他にも様々な商品が詰め込まれていた。
溢れ出しそうなところを魔術の結界で塞いで誤魔化している。
荷台の惨状を気にも留めず、ルーンミティシアは涼しい顔で話題を変えた。
「次の予定は何だったかしら」
「下水道に生息するスライム討伐です。その次が郊外の盗賊退治ですね」
「どちらも面倒ですわね。断ってもよろしくて?」
「駄目に決まってるじゃないですか! 街の治安維持に貢献するのが領主様との契約です。反故にしたらお金を貰えませんよ」
「むう、難儀ですわね……」
ルーンミティシアは頬を膨らませる。
彼女が文句を言おうとしたその時、進行方向から怒鳴り声が聞こえてきた。
「泥棒だっ! 誰か捕まえてくれ!」
街の通りが騒然としている。
すぐさま立ち上がったルーンミティシアは扉を開けて外に飛び出した。
「ユナ」
「かしこまりました」
頷いたユナが魔術を行使する。
彼女の手の間に一枚の結界が構築され、それが筒状に丸まって棍棒になった。
ルーンミティシアは慣れた様子で結界棍棒を手に取る。
その際、ルナが忠告する。
「死なないように手加減してくださいね!」
「考えておきますわッ」
応えながらルーンミティシアが駆け出した。
彼女の視線の先には、装飾品を抱えて逃げ去ろうとする男がいた。
ルーンミティシアが圧倒的な速力で追い付くと、男は仰天して転びそうになる。
「うおっ」
「お眠りなさい」
結界棍棒の一閃が男を殴り飛ばした。
地面を転がった男は白目を剥いて気絶している。
間もなく衛兵がやってきて男を拘束した。
一部始終を目撃した街の住人はルーンミティシアを称賛する。
「おおっ、さすがルーンミティシア様だ!」
「今の見たか、一撃だったぜ」
「さすが勇者だ……!」
ルーンミティシアは誇らしげに胸を張る。
これが彼女の日常だった。




