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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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115/116

第115話 世界樹の問題点

 部屋を出たリリアはシエンと共に廊下を進む。

 彼女は隠蔽の結界を構築し、周囲の人間が二人に気付かないようにした。

 それは余計なトラブルを引き起こさないための配慮だった。

 一連の術を眺めつつ、シエンは世間話を始める。


「王国の魔術長官とは君もずいぶんと出世したね」


「魔王討伐の功労者として持て囃されたのがきっかけでした。国王は身内の成果にしたかったそうで、あなたの存在を過小評価したのです……申し訳ありません」


「何を謝る必要があるのだね。きっかけは上層部の策略かもしれないが、君自身が努力して現在の地位を得たのだろう。しっかりと誇りたまえ」


「……ありがとうございます」


 リリアはシエンの言葉に少し驚く。

 辛辣さな響きは鳴りを潜め、穏やかな優しさを感じたからだった。

 内心を表には出さず、リリアは話題を変える。


「世界樹はどうなったのですか」


「六十年かかったが乗っ取りに成功した。僕の魂の情報を病のように広げて全機能を掌握してあるよ」


 シエンは胸を張る。

 そして試すような笑みでリリアを見た。


「僕は世界樹になった。しかしここにいる。どういう仕組みか分かるかね」


「うーん、そうですね……」


 リリアは顎を撫でつつ思考する。

 細められた目は本質を射抜くような鋭さがあった。

 やがてリリアは流暢に回答する。


「あの時の死体……本来の肉体と、五つの人造勇者を合成していますね。世界樹のそばに埋葬した死体を養分として取り込んだのでしょうか。魔族を生み落とす力があるのですから、生命の復元も可能なはずです」


「いいね。優れた眼を持っているじゃないか」


「これでも魔術長官ですから」


 リリアは少しおどけて述べた。

 シエンは嬉しそうに解説を行う。


「君の推測した通り、この身体は六つの死体を再構成したものだ。もちろん魂の情報も刻んであるから、自我を宿して自由に行動できる。意識は世界樹と常にリンクさせているので便利だよ」


「遠隔操作できる感覚器官といったところでしょうか」


「実に的確な表現だね。今後は採用させてもらおう」


 上機嫌なシエンは手を打った。

 すれ違う魔術師達が一瞬だけ反応するも、すぐに首を振って歩き去っていく。


「さて、世界樹は僕のものになったがまだ問題が残っている」


「問題とは?」


「まず世界樹は壊せない。すべての機能を掌握しても自壊させる方法がないのだよ」


 シエンはあっさりと明かした。

 彼は淡々と説明を続ける。


「世界樹の悪を養分にする。この悪とは人間の感情や死という現象、魔術行使による物理法則の歪みを指す」


「発生を止めるのは不可能ですね」


「そうなのだよ。世界樹の浄化機能には限度があってね。徐々に汚染が進んでしまうんだ。直接的な原因は別世界の僕が属性を変えたことだが、これは元々の欠陥らしい」


「養分の吸収を止めれば汚染も改善されるのではないですか」


「それをやると、栄養不足に陥った世界樹が暴走するだろう。おそらく僕にも制御できないね。きっと世界は崩壊する」


 リリアはぞっとした。

 もしシエンの懸念が現実になれば、止められる者などいないだろう。

 それが分かったからこそ戦慄した。


 問題を挙げながらも、シエンは落ち着き払っていた。

 否、目だけはぎらついた光を放っている。


「僕は世界樹に憑きながらずっと解決方法を考えていた。そして閃いたんだ」


 シエンが指を鳴らした瞬間、二人の足元に魔法陣が出現する。

 リリアはそれが転移機能を持っていることを察知した。


「歴史的瞬間を君にも見てもらおう」


 二人の姿が廊下から消えた。

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