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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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112/116

第112話 平和の代償

「五人も分身を作ったのは、魔王がどんな存在だろうと確実に倒すためだ。能力は一人一回だから最大で五回だね」


 シエンはいつも通りの口調で述べる。

 淡々とした口調からは一切の感情が排除されていた。


「これが真の最終兵器だ。他の人間の魂を使う案もあったが、確実性が低いので僕自身のものを使った。僕の精神力なら世界樹の乗っ取りも可能だろう」


 当然のように語るシエンのそばで、リリアは深刻な表情になっていた。

 彼女は何か言いたげな様子で歯噛みしている。

 それに気づいたシエンが尋ねた。


「どうかしたかね」


「……魂の分割は本来ありえない行為です。気軽にできるものではありません。あなたは大きな代償を払っているはずです」


「そうだね。魂の破損と過負荷で廃人寸前さ。なるべく多くの勇者を用意したかったが、僕では六分割が限界だった。そうそう、寿命もあと三日くらいだね」


 シエンはあっさりと打ち明ける。

 その内容にリリアは絶句する。

 魔族を迎撃中の勇者達も思わずシエンを見た。


 己の死について話す間も、シエンの様子は変わらなかった。

 後天的に生み出された五人のシエンも澄ました顔でやり取りを見守っている。

 リリアは悲痛な雰囲気を隠せないまま呟いた。


「なぜそこまで……」


「魔王討伐に必要だったからだ」


 断言するシエンの目が世界樹を見上げる。

 恐怖を超越した眼差しは鮮やかな光を灯していた。


「僕は人造勇者のために他者の命を……死後の尊厳すらも使い潰してきた。目的のためならどんな犠牲も厭わないよ。それは自分自身も例外ではない。やるべきだと判断すれば実行するさ」


 シエンは片手に杖を向ける。

 指先から灰色の変色し、ひび割れながら岩のような質感になっていく。

 亀裂の一本一本が術式の紋様を描いていた。


「どうせ死ぬんだ。固有能力を使えない僕の魂はここで使い果たしておこう」


 シエンは変貌した手を世界樹に押し付ける。

 灰色の手首から先が砕け散り、世界樹がぼんやりとしたオーラに包まれた。

 降り注ぐ魔族の数が一気に減り、勇者達は攻防を止める余裕が生まれる。


「手紙に記された時空魔術を応用して、世界樹の時間を鈍化させてみた。これで魔族の出現ペースは劇的に遅くなった。定期的に駆除すれば対処可能な規模のはずだ」


「……おい。あとは俺達に任せるってことか」


「ああ、頼んだよ。根本的な解決にはならないが、僕が世界樹を支配するまでの時間稼ぎにはなるだろう」


 ケビンに睨まれながらも、シエンは清々しい表情だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ。自分を含めた全てを数字で数えるが故に、誰かのために命を投げ出すってこともあるわけか。   これがシエンの人情なのかな?
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