第111話 魂の冒涜
シエンが杖を振ると、地面に魔法陣が出現した。
そこからせり出すように五人の人間が召喚される。
並んで立つのはシエンと瓜二つの容姿を持つ男達だ。
ただし元からいたシエンが黒髪であるのに対し、新たに現れた五人はくすんだ銀髪だった。
これにはリリアも驚愕する。
「シ、シエン様が増えたっ!?」
降り注ぐ魔族を迎撃しながら、他の勇者達も驚いていた。
突如として六人になったシエンのせいで明らかに集中を欠いている。
銀髪のシエン達が一斉に喋り始めた。
「落ち着きたまえ」
「そんなに慌てることではないだろう」
「大げさに反応してくれると温存した甲斐があるがね」
「他の皆も驚いているじゃないか」
「そういえばソキにしか話していなかったか」
シエン達は顔を見合わせて会話をしている。
代表して黒髪のシエンが真相を語った。
「己の魂を分割して、空の人造勇者に与えて人格を複製してみたんだ。基礎の仕組みはケビンと同じだね。つまり僕以外の五人は人造勇者だ」
「なんでそんなことしたんだよ。ただの好奇心じゃねえだろ」
「固有能力が欲しかったからさ」
今度は銀髪のシエンが手際よく詳細を説明する。
「人造勇者の固有能力は僕の技術力なら再現可能だが、厳密には別物だ」
「既存の法則を無視した力が魔王戦には必要だと思った」
「特に僕自身の魂を利用すれば、望む能力が得られると考えたんだ」
「どんな勇者になるかという興味もあったがね」
「ひとまず予想通りの結果になったよ」
次々と繰り出される情報の数々に、リリアは反応すらできない。
その姿にシエン達は一様に満足そうな微笑を浮かべている。
黒髪のシエンは自分の胸に手を当てる。
「手に入れた固有能力は、魂の情報の上書きだ。相手の魂にシエン・ルバークの情報を植え付けることができる」
「それをするとどうなるんですか?」
「魂に刻んだ情報は相手を蝕み、やがてシエン・ルバークに自我を乗っ取られる。言うなれば増殖だね。魂の分割という作業工程がそのまま固有能力として昇華されたようだ」
黒髪のシエンは不敵に笑う。
説明を聞いたリリアはハッとした顔で尋ねる。
「まさか、魂を使った武器はこの試みのための前段階の実験だったのですか?」
「よく分かったね。その通りだよ。ちなみに他の人造勇者やその関係者の能力も参考にしている。魂は未知の領域が多いからね。リスクの高い実験だから苦労したよ」
言葉とは裏腹にシエンは嬉しそうだった。




