第108話 送られた言葉
やあ、よくここまで来たね。
絶えず降り注ぐ魔族の果実はさぞ大変だったろう。
外敵に反応する仕組みだから、近付くほどに豪華な歓迎を受けたと思う。
しかしこの手紙を読んでいるということは、無事に根元まで辿り着いたのだね。
実に素晴らしいことだ。
心から尊敬するよ。
まあ、僕は周りから心無い人間と言われるので、この表現が適切なのかは微妙なところだが。
とにかく君のことを大いに褒め称えていることは理解してほしい。
これを読んでいるのはおそらくシエン・ルバークだろう。
人造勇者の軍勢を率いてやってきたはずだ。
もし違ったとしても気にしなくていい。
誰だったとしても伝える内容は変わらないからね。
なるべく万人が分かるように説明するので安心したまえ。
まずこの巨大な樹木についてだ。
結論から述べると、世界樹の成れの果てである。
世界樹は悪を浄化する働きを持つが、膨大な年月の中で悪が蓄積してしまったらしい。
それによって世界樹の属性が反転して、無限に魔族を生み出す存在と化した。
世界樹の破壊は今のところ不可能だ。
様々な観点から実験をしたが、いずれも有効打には至っていない。
まるで世界そのものが濃縮されたような物質なのだ。
上手く解体できれば使い道もあるのだが……残念なことである。
世間で魔王と呼ばれる個体も、この世界樹の落とす果実の一つに過ぎない。
端的に説明すれば、通常より多くの瘴気を与えられた個体だね。
別にそれ以上の秘密はない。
だいたい百年周期で魔王の果実が生まれるだけだ。
我々は太った林檎に迷惑をかけられていたことになるな。
僕は愉快だと思うが、この例えを披露したら非難されてしまった。
いやはや、人間の感情とは難しいものだね。
僕の中では唯一の苦手分野かもしれない。
愚痴を聞かせてすまない。
次にこの手紙を残した理由について話そう。
世界樹の破壊は不可能だと言ったが、対処方法があった。
それは時空魔術の類だ。
世界樹の座標をずらさずに、それ以外の時空間だけを動かすことはできた。
つまり何が言いたいのかと言うと、世界樹は君に任せたということだ。
厄介なものは丸投げするに限るね。
こちらでも分析は続けるが、当分は管理を頼むよ。
それでは未来より愛を込めて。
災厄の賢者シエン・ルバーク




