第107話 黒い果実
続々と魔族が出現する中、シエンはソキに命令を下す。
「樹木を攻撃してくれ」
「かしこまりました」
ソキの振り抜いた拳が衝撃波を飛ばす。
衝撃波は魔族を蹴散らし、その奥の樹木に炸裂した。
ところが樹木は僅かに揺らいだ程度でダメージは見られない。
その後もソキが数度の攻撃を見舞い、リリアも魔術を投射するが結果は同じだった。
「ふむ、まったく破損しないか。物理的な耐久性……というより概念的な防御力か。何らかの術で存在が固定されているのだろうか」
シエンが考察する中、三人を魔族が包囲する。
ソキは無表情に魔族を抹殺していった。
四方八方からの攻撃にも怯まず、魔力を奪いながら的確に対応している。
「個体の強さは様々だね。スライムやゴブリン、角の生えたウサギといった弱い魔族もいれば、上級魔族に匹敵する個体も混ざっている。法則性は皆無だ」
「先ほどの竜に値する強さの魔族はいないようです」
「確率が非常に低いか、再出現に時間がかかるのだろうね。個人的には後者の説が濃厚だと思うよ。百年周期の説明がつくからね」
戦闘中とは思えないほど冷静にシエンとソキは意見を交わす。
リリアは樹木を見上げていた。
黒い林檎を落とす樹木は途方もない魔力を宿しており、彼女は背筋を凍らせる。
「この樹木を破壊すれば、世界は平和になるのですか」
「まあそうだね。可能かどうかを度外視しないといけないが」
「え……?」
その時、後方からケビンの率いる部隊がやってきた。
リリアの援護をしていた者に加えて、生き残った人造勇者と志願兵も追従している。
周囲の魔族を倒しつつ、ケビンは怪訝そうに声を上げた。
「おい、こいつはどうなってんだ」
「見て分からないのかね。あの樹木こそが魔王だ」
「はあ!?」
「驚いてないで援護したまえ。近付いて分析する必要がある」
「分析したら倒し方が分かんのか!?」
怒鳴り返すケビン。
シエンは苦笑気味に首を振った。
「さあ、どうだろう。ただこのままでは全滅するから進むしかないね」
「くそッ! 最後までやってやるよちくしょう!」
ケビン達は樹木へと進み始めた。
雨のように落下してくる黒い林檎を弾き飛ばし、襲いくる魔族を撃退する。
陣形の中央にはシエンとリリアがいた。
二人を守る形で部隊は慎重かつ迅速に進む。
ほどなくして彼らは樹木の根本まで辿り着いた。
手袋をはめたシエンは樹木を触って調べる。
その間、降り注ぐ林檎と魔族の迎撃はケビン達に丸投げされていた。
巨大なトロールを切り倒したケビンはシエンを急かす。
「どうだ! 弱点は見つかったのか!?」
「…………収穫はあったようだ」
シエンは樹木の根に挟まった羊皮紙に注目していた。
彼は羊皮紙を引き抜くと、そこに記された内容を読み始める。




