第104話 勇者の底力
竜が炎を放射した。
豪雨のような勢いと密度で一帯を焼き払っていく。
シエンとリリアを守る結界が軋み、徐々に亀裂が走りつつあった。
それを見たシエンが眉を曲げる。
「ほう」
シエンが指を鳴らすと、追加で数枚の結界が展開された。
炎は完全に遮断されており、二人に危害を加えることはない。
命中した攻撃を分解し、そこから得た魔力で結界を強化するシエンの発明だった。
一方、リリアは地面に倒れるソキに注目していた。
焼け焦げた肉体は少しも動かない。
「ソ、ソキさんが……」
「ふむ」
シエンが杖を小さく振る。
するとソキがむくりと起き上がり、身体を包む炎を払って消した。
焼け爛れた皮膚が再生して傷が急速に癒えていく。
同時に絶対零度の殺意を放ち始める。
それは不甲斐ない己に対する無限大の怒りであった。
血の涙を流すソキは、無表情のまま歯を食い縛る。
そんな彼女に臆せずシエンは結界内から呼びかけた。
「手助けは必要かな」
「問題ありません。すぐに終わらせます」
火傷が完治したソキは屈み、次の瞬間には上空まで跳び上がった。
空中を蹴り進むソキは炎を撒く竜に蹴りを見舞う。
そこから目にも留まらぬ速度で拳を叩き込んだ。
浴びせられる炎を手で切り裂き、渾身の力で打撃を炸裂させていく。
嫌がる竜の体当たりがソキを地面に打ち落とした。
ソキは即座に立ち上がると、その倍以上の威力の拳で竜を殴り飛ばす。
双方の魔力が周囲の天候を雷雨で塗り変えていく。
壮絶な光景を見上げるリリアは口をあんぐりと開けていた。
「す、すごい……」
「ソキは肉弾戦で相手の魔力を削って自分に還元する。さらにその魔力を分析し、自らの魔力特性を調整できる」
「調整するとどうなるのですか?」
「敵の攻撃が効きづらくなり、自分の攻撃が通りやすくなる」
シエンの解説を証明するように、ソキの攻撃が苛烈さを増していった。
竜の反撃も意に介さず、大気を揺るがすほどの猛攻を繰り出している。
連撃を受けた竜の身体が少しずつ小さくなっていた。
魔力の消耗に加え、ダメージが魂にまで浸透しているのだった。
全体の動きがだんだんと鈍り、加速するソキに明確な遅れを取りつつある。
形勢の逆転を感じ取ったシエンは笑みを深めた。
「後出しで相性を有利にしていくんだ。理論上は最強だね」




