第102話 集う勇者
ケビンの剣術が魔族を斬る。
そこにルーンミティシアの結界が割り込んで進路を確保する。
必要最低限の攻防で三人は移動を強行していく。
「止まるなよ! 包囲されたら終わりだ!」
「はいっ!」
リリアは応戦せず、走ることに集中する。
自分が下手に手出ししても効果が薄いと理解しているからだ。
ともすれば二人の連携を崩しかねない。
とにかく必死に走り、足手まといにならないことが最優先だった。
三人を阻む魔族に一直線の風穴が開く。
それは遠距離から放たれた矢の狙撃によるものだった。
続けて六色の魔術が炸裂し、範囲内の魔族を消し飛ばす。
小高い丘の上には勇者ラルクと六人の少年少女がいた。
彼らの援護に見たケビンは歓喜する。
「さすがだな! 良い仕事をしてくれるぜ!」
喜んだのも束の間、大地を割って岩石の巨人が出現した。
矢や魔術で破損しても微々たる被害で意に介さず、リリア達を踏み潰そうとする。
紙一重で踏みつけを躱しつつ、ケビンは巨人を見上げた。
そして、上空から落下してくる人影に気付く。
「ぶった斬るッスよおおおおおぉぉぉォォォッ!」
落下してきた魔剣の勇者エナが巨人を一刀両断した。
内部の核を破壊された巨人は身体を保てなくなって崩壊する。
エナは慌てて砂塵と瓦礫から抜け出す。
彼女の持つ白銀の剣は二つの声を発していた。
「どうだ! 俺様の一撃は最高だろう!」
「いやいやワシのおかげじゃろ」
「ああッ!? 爺が何言ってんだ!」
「ちょっとちょっと! 喧嘩しないでほしいッス!」
剣に宿るマギリとリグルの口喧嘩に、エナは辟易とした様子だった。
ケビンは移動し続けながら三人に声をかける。
「珍しいな。育成に専念するんじゃなかったのか」
「爺が魔王を斬ると言ってうるせえんだよ」
「ワシらの獲物じゃからな! そこだけは誰にも譲らんぞ」
「まあそんなわけでお供するッス!」
「おう、助かる!」
エナ達を加えた一行はさらに走った。
魔族の量はひたすら増加し、徐々に移動ペースが落ち始める。
防戦を強いられることに苛立ったケビンが叫んだ。
「くそ、どんだけ出てきやがるんだっ!?」
「またワシらが斬ればいいじゃろう」
リグルが獰猛な気配を発したその時、周囲の魔族が一斉に溶け出した。
魔族には黒銀の触手がへばりつき、それに吸収されて跡形もなく消えていく。
そこに残されたのは一人の美女だった。
ケビンが驚きの声を洩らす。
「あいつは……」
「普段は前線に来ないんだけどね。決戦くらいは参加しないと」
黒銀の触手が美女の手元に集まり、五本の鉤爪状の武器になる。
不死身の魔女ミランダは、リリア達に手を振ってから後方の戦場へと歩き去った。




