第100話 呪詛の霧
魔族が悲鳴を上げて爆散する。
夥しい量の鮮血を噴き出しながら倒れていく。
赤黒く染まった大地を踏み締めるのは使用人ソキだった。
「消えなさい」
ソキが右腕を振るう。
扇状に衝撃波が発生し、迫る魔族が弾けて死んだ。
「目障りです」
ソキが左腕を振るう。
新たな衝撃波が魔族の放つ術を貫き、術者を粉微塵にした。
「死になさい」
ソキが蹴りが大蛇の腹に炸裂する。
勢いよく吹き飛んだ大蛇が魔族を轢き潰して甚大な被害をもたらす。
大蛇自身も吐血して絶命した。
災害に等しい暴力を解き放ちながら、ソキは漆黒の大地を進む。
彼女の背後には涼しい顔のシエンがいた。
シエンは戦闘に参加せず、面白がるような目つきで戦況を観察している。
二人の向かう先は、魔族の軍勢が登場した場所だった。
瘴気が最も濃い地点であり、シエンの興味を引いたのである。
志願兵や勇者の奮闘をよそに二人は突き進んでいく。
ソキの奮闘を見てシエンが声をかける。
「魔力残量は問題ないかね」
「ご主人様の開発してくださった還元装置のおかげで八割以上を保っています」
「それはよかった」
「お気遣いに感謝します」
人造勇者のソキは、常軌を逸した身体能力を有していた。
その性能は肉弾戦に特化しており、単純な力勝負で彼女に敵う者は存在しない。
継続戦闘を想定した回復機能も搭載しており、シエンの護衛として完璧な実力を誇る。
ソキが前方の一点を睨む。
人面で構成された霧が彼らのもとへ吹き込もうとしていた。
「呪詛が来ます。お気を付けを」
「想定内の攻撃だ。僕に任せたまえ」
シエンが前に進み出ると、魔法陣が描かれた羊皮紙を掲げる。
魔法陣が光を発し、人面霧の呪詛を跳ね返した。
霧に触れた魔族は泥になって連鎖的に崩れていく。
泥をガラス瓶で摂取しつつ、シエンは考察する。
「魔族が僕達を呼び寄せた理由が分かった」
「何でしょうか」
「戦力の逐次投入では僕達を止められないと考えて、環境的に有利な場所での総力戦を選択したのだよ」
「高濃度の瘴気地帯は魔族の力を高め、逆に人間の生命を脅かします。理に適った判断ですね」
「その通り。説明の手間が省けて助かるよ。君は賢いね」
「ご主人様ほどではありません」
ソキは丁寧に応じながら、拳で魔族を粉砕した。




